2-44.会敵と再会、そして

 業火の渦が、町中を覆っていた。

見渡す限りの煙火の宴は、飛び切りの焦燥感を募らせる。


「オズゥゥゥゥゥウウウ、どこにいるのですかぁぁぁぁぁああ⁉」


 最初に叫んだのは、ムネモシュネさんだった。

感情は爆発し、整った顔立ちもぐちゃぐちゃになっている。

荒れ狂うように腕を広げ、足は地面を抉り、気迫のあまり唾は宙を舞った。

やり場のない絶望を、その身全てで表しているようだ。

そして、その感情は、何もムネモシュネさんのみが享受している訳ではない。


「オ、オズゥゥゥゥゥゥゥウウウウ、いるかぁぁぁぁぁぁぁあ‼

いるなら返事してくれぇぇぇぇぇえええ‼」


「オズ少年、反撃だけはしないでくれよ!

敵は、君をりに来ているからなッ‼」


「オズくぅぅぅぅぅぅぅぅん!

今、助けに行くからねぇぇぇ!」


 俺、イノーさん、アナも、三者三葉の呼びかけを、次から次へと発していった。

 オズは一体どこにいるのか。

幸い俺は、ここの地理をなんとなく把握している。

オズのいそうな場所と言えば、絞られてもくるはずだ。

中央にある『禁忌の砦』は本命として、対抗で旧住居、大穴で壁周辺と言ったところだろうか。

壁周辺には、オズお手製の畑があったはずだ。

もう大分だいぶと昔のように感じる、あの『追憶の旅』で見たものだから、今も変わらずそこにあるかはわからない。

それでも何の当てもなく動くよりずっとマシだ。

もしかしたら、地下に自分の身を守るための空洞を作っている、もしくはあることを知っているという可能性もある。

まぁ、その可能性に賭けるより、自分たちのもっている可能性の切り札カードから切っていく方が、遥かに効率がいいだろう。

あるかもわからない秘密の場所より、確実にあって可能性のある場所の方が断然信じられるからだ。

全部見終わってから、前者は探していけばいい。……よし、決まりだ!


「手分けして探そう。

俺はあっちの区画を、イノーさんとアナはそっちの区画を頼む……」


 俺が右腕を左右に振りながら仲間に指示を出し、行動に移そうとした次の瞬間。

上空より妙に甲高い、聞き心地の悪い声が突っかかってきた。


「――おぅや、これはこれは……とんだ虫けら共が迷い込んできたみたいっスねぇ!

オレ、燃えてきちゃったっス!」


 俺達はそちらを見て驚愕する。

あろうことか今まさに町を破壊している敵主力が、直々に話しかけてきているじゃねぇか!

まぁ、こんなに大声を張り上げているのだし、予想できたことではある。

が、こんなにも早くこちらの影に気付こうとは思いも寄らなかった。

敵は案外、『耳』が優れているのかもしれない。


「お前は『死の救済マールム』の一員だな!

何だってオズを狙うんだ?」


 俺は、彼らがオズを狙うことに単純な疑問を感じていた。

確かに、ムネモシュネさんに恨みがあることも一因のように思うし、ここにはオズしかいないのだから必然的に狙いはオズだといえるのも理解できる。

それでも、理解と納得は別物だ。

何か真の理由があるように思えて他ならない。


「ほう、鋭いっスね、虫けらのクセに。

まー、言ってしまえばオレ達の計画に邪魔なんスよ」


「「「「は?」」」」


 俺達は、一斉に声を上げた。

並々ならぬ思いを抱えてやってきた俺達がバカみたいじゃないか。

何が計画に邪魔だからだよ、笑わせんな!


「そんなことで――」


 俺が奴に抗議を申し立てようとした時、エイム・ヘルムの中央に君臨する『禁忌の砦』から一つの人影が飛び出してきた。

目の端に映った、その存在をそのまま目で追い、一気に悪寒おかんが走る。


「あ」


 敵が間抜けな声を漏らした。

それと同時に、一人の男が息を切らしながら俺達の前に立って仁王立ちする様子が目の前に展開される。

俺はその姿を見て、顔が熱くなるのを感じた。


「――貴方の目的は、『私』なのネ。

なら、そこにいる関係のない人達には危害を加えないでヨ~」


 そこには、およそ一か月ぶりに見た『オズ』の姿があった。

オールバックにきめた深碧の髪は相変わらず、美しいオーラを放っていた。

潤む瞳が、あいつをよく見えなくさせる。

 再会できた喜びから、あいつに駆け寄ろうとした直後。

上空、敵の領域にてが完成する音が聞こえた。


「見ぃ~つけたっと!」


 敵の頭上に出来上がった、赤黒く小さな球体から音速の光線が発射され――。


『オズ』の右胸を打ち抜いたのだった。


試験当日まで、残り五日。

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