2-43.疑惑の確信

 三人と一柱は、エイム・ヘルムに向け歩き始めた。

イノーさんとアナには、オズとの面識がないらしく説明を求められたため、軽く紹介しておく。

オズが王族だったと聞いて、二人は意外にもを見せた。

何かおかしいかと尋ねると、信じられないとでもいうような顔で、このように告げてくる。


「え、ザビっちは知らないの?

王家を追われた醜き王妃の話……」


「この話は話せば長くなるから、簡単に説明すると『王妃が当時の大臣と不義の恋仲となって、望まれぬ子供を授かってしまったという話』だよ。

それで、その子供の名前が『オズ』だったらしい。

だから、反応してしまったってとこだ。

……まぁ、子供の存在はあくまで噂で、実際に見た者はそう多くないと聞く。

でも、その件が事実かどうかはさておいて、その後、王妃は流浪の旅に出かけ、未だ帰ってきていないのだよ」


「色々と聞きたいことがあるんだが……」


「まぁ、細かいことは良いじゃないか!

さぁ、早くゲートから離れよう!

そのオズ少年とやらが待っているぞ!」


 なぜか深くは触れられたくないようで、サクッとこの話を切り上げようとしてくるイノーさん。

俺もイノーさんの圧に押し込められる形で、この話を深掘る好機を取り逃してしまう。

俺も元々、オズのことを知らなかったから、さっきの話はどことなく信憑性があるような気がしてならない。

お母様に関しても、俺とエクとお父様の三人で諸王国への挨拶回りをし終えた後に、王室からいきなりいなくなったような……。

実際のところはわかりかねるが、今後はお母様ともどこかで再会なんかできたらいいかもな。

また一つ、俺の中で『目標』ができた。――この世界を冒険する中で、お母様も見つけ出す!

 王都からエイム・ヘルムまではそう遠く離れていないため、直ぐに着くだろう。

今のところ何も起こる気配もなく、イノーさんが嘘神託を受けたのではないかと疑いたくなる程だ。

正午頃と時間指定も受けていた割に、不穏な空気が何一つ感じ取れず、逆に不安になってくる。

とりあえず、今目の前に起きている状況を整理しつつ、目的地を目指していこう。

全体を把握しないことには、わかることもわからない。


「ムネモシュネ神はどうして、地上に?

本来、天界にいなきゃいけない存在だろうに」


 イノーさんは臆面もなく、興味を優先した。

自分の知っていることは語らない癖に、相手には語らせようとしてくるとは、実に罪深い……。


「おーいそこぉ、煩いぞ!」


「わーったわーったって!

いきなり『真実』を読んでくれるなよ!」


 イノーさんは、ビシッと人差し指で俺を指してきた。

こういう時には、是非とも使わないでほしいものだ。

イノーさんもペロッと舌を出して、小悪魔みたく振舞ってくる。

そうやって許されるもんでもないからな!

 ムネモシュネさんは、この茶番劇が終わるのを見計らって、話し始めた。

初対面なのに、なんか気ぃ使わせてすんません!


「実はですね、私、天界の方を追放されてしまいまして――」


 ムネモシュネさんの話は、辛く苦しいものがあった。

オズとの修行の第二段階セカンドステップでいきなり血を飲むことになったが、その神託を地上にまで来てしたのが、ムネモシュネさんだったらしい。

天界うえで見ていて、どうしていいかわからず一人で悩むオズを助けてあげたかったそうだ。

これまで月に一度、外界情報の提供及び物資の供給が行われていたのもムネモシュネさんによるものだった。

これは何となくそうだったのではないかと、俺も考えていたことだ。

……何よりムネモシュネさんの行動の原点が『オズ』にあったことは知られて嬉しい反面、それによって立場を失ってしまったことは何とも言えない罪悪感を覚えずにはいられなかった。

俺達の顔をそれぞれ見て、慌てたように手をパタパタし出すムネモシュネさん。


「そんなに重く受け止めないでください。

私は自分の行動に後悔なんてしていません!

相手の虚を突いた先手を打つことができたのですから!」


「まぁ、本人が良いというのならそれでよいのかもしれないが……」


「そ、それはそうとして、先ほど話していた『執行対象なるもの』の話が気になります。

あそこには、北にある第一世界、第二世界が『滅亡領域』になって以来、オズしか人は住んでいないはずですが」


「ワシはムネモシュネ神の話を聞いて確信したよ。

敵の狙いは、間違いなく『オズ少年』だ」


 俺達の中に、衝撃という名の稲妻が走った。

やはりオズが執行対象だったのか。

俺もエイム・ヘルムに『執行対象なるもの』がいると聞いた時、もしかしてと思う自分と、だからと言って、と信じたくない自分がぶつかり合っていた。

でも、今のイノーさんに言われると、説得力を感じずにはいられない。


「『死の救済マールム』にはムネモシュネ神に恨みがあり、傷を負わせるには最愛の息子を手にかけることが一番手っ取り早いこと、エイム・ヘルムにはそもそもオズしか住んでいないことなどなど、確定ではないが起こり得る条件は揃いに揃っている」


「あとどれくらいで着くのでしょうか?

早くしなければ、オズは、オズは……‼」


 ムネモシュネさんが大きく取り乱し始めた。

無理もない。あれだけの話を語れるほどに、愛が深いのだから。


「ムネモシュネ神、どうか落ち着いて!

もう見えてくるはずだ――」




✕✕✕




 そして、俺達は目的地、決戦の舞台――エイム・ヘルムに辿り着いた。

そこに広がっていたのは、一つの地獄絵図。

上空に浮かぶ悪魔がごとき翼をもった存在が、エイム・ヘルムに集中砲火を浴びせ、建物を軒並み破壊していたのだ。

オズは猛攻撃の中、命をつないでいるのだろうか。

試験当日まで、残り五日。

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