2-40.可能性の秘技

 エラー出発まで、今日を入れてあと二日となった。

俺らの修行場所として定着した、北東郊外の草原地帯。今日も今日とて俺とエラーは、己の意志をぶつけ合う。


「もう日にちもねぇんだ!

そろそろけりを付けさせてもらうぜ!」


「俺は、お前には負けん!

てか十分強くなったじゃねーかよ、それで満足しちまえってんだ!」


 そうあのアナ自殺阻止作戦以降も修行を継続して行い、自他共に強くなったと公言できるほどの実力をつけることができた。

基礎体力向上から始まったエラーとの修行も、文字通り佳境。明らかに手数も増えたし、場数を踏んだことによる対応力も備わってきていた。

それでも、当初から豪語するは成しえていない現状だ。

どうすれば勝てるのか。待てども待てども天啓のようなものは降ってこない。

相手をよく見て、考えて、仮説を立てて、実践していく。

言葉にすれば簡単なことなのに、いざ行動に起こせば忽ち雲行きが怪しくなって、何も信じられなくなる。

 なかなか区切りの良い終わりが見つからず長引いた第一回戦も、俺の根負けによって決着がついた。

ここで、一旦の休憩時間が訪れる。俺達は二人して地べたに座り込み、各々に身体を休めていく。

俺は勝負中もずっと気になっていたことについて、もう少し考えてみることにした。

 エラーの強みは、『膨力者』という肩書きだけではない。

多種多様な戦闘技術も、類い稀な戦闘感覚センスも、エラーを構成する一つの要素とは言い表せるだろう。

だがしかし、ただそれだけなんだ。

他に、誰しもが納得するような何かがあるはずだろう。そう考えなければやっていけたもんじゃねぇ。

……ならば、エラーを越えていくためには何が必要なのだろうか。

俺になくてエラーにある決定的な違い。端的に言っちまえば、世界最強の一角に近付いていける方法って何なんだ?


「エラーはよ、圧倒的な戦闘力で毎回俺をボコボコにしてくるよな?

あの惨状たらしめる要因って一体何なんだろうな」


 休憩時間に唐突に投げ込まれた質問。

大粒の汗を拭きながら息を整えているエラーは、真面目な顔してこう答える。


「……やっぱ俺がつえーからかな」


 おい、マジで言ってんのか!

だったとしたら、もう手遅れだよ。

エラーも認める強さにまではなったけど、結局そこが最高点で、そうなったなら俺の限界はそこってことだ。

そこは、エラーに限りなく近付けど、エラーを決して超えることはない。


「何度も言うが、俺はエラーを超えたい。

そのためならなんだってするつもりだ!

俺は、俺自身の抱えるもんのために強くなりてぇ!」


 その言葉を受けて、エラーはハッと息を呑む。

それから、ゆっくりこちらを向いてやけに力の籠った視線を浴びせてきた。


「――ザビは、本気なんだな?」


 その向けられた人の精魂を食らってしまうかのような重圧に、顔を背けたくなる。

でも、俺は負けじとエラーの顔をキッと睨み返して、言い切ってやった。


「あぁ! もちのろんだぜ!

本気も本気だ!」


 その答えに満足したように、エラーは元の位置に顔を戻す。

心なしか青く澄んだ空を体現したような表情を見せ、一言。


「俺が負けることは決してないが、俺のもつ最強の必殺技でも教えてやるぜ!

これが習得できたなら、もしかしたら俺を追い詰めることもできるかもな!」


「おい、俺はエラーを超えたいって……」


 すぐさまツッコミを入れようとする俺をその大きな手で制止して、座っていた地べたから立ち上がる。


「これはよ、俺の息子にしか教えてねーようなスゲー必殺技なんだぜ?

……認めたくはないが、あぁ、絶対認めてやりたくはないがッ!」


「息子ってへイリアさんのことか!

ってかやけに焦らすじゃねぇかよ、早く教えろ!」


「ふむむむむぅ……!

そう、もしかしたら!

俺でさえぇ、俺でさえやられてしまうかもしれない秘技なんだよッ‼」


 鬼気迫る語気そのままに、両手で握り拳をつくり強く強く握り込む。

ギュッという肉の擦れ合う音が耳元まで届き、その力の強さから今にも血が滲み出てきそうな勢いだった。


「なな、なんだよッ、それ!

早く俺に伝授してくれ!」


 ここにきて俺に舞い降りてきた天啓。

まさか自分からそれを言ってくれるとは思わなかったが、こっちとしては好都合だ。

さっさと習得して、エラーに一泡吹かせてやるぜ!

試験当日まで、残り十二日。

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