2-37.俺はまだ、何者にもなれていない
俺は北東の
後ろからエラーの俺を呼ぶ声が聞こえたが、とりあえず無視だ。
とにかく時間が惜しい。と、言っても何もわかっていないんじゃ何とも……。
ちょっと待てよ。……そうだ、いいことを思い付いた!
俺は、脳内で青藍の髪を外套の
――緊急事態だ、イノーさん!
誰かが今、死のうとしてるらしい!
『
登録してもらった手前、早速使ってみた。
貶められた因縁や、下らない矜持なんて関係ない。
ただ目の前の命が救いたいんだ!
すると、直ぐにイノーさんからの反応が返ってくる。
――おぉ、ザビ少年!
『君にも』?
不可解な言動に、首をかしげる。
――まさか、イノーさんにも届いてたってのか!
――あぁ、そうさ。で、君は今どこで何をしているんだ?
なるほど、俺に向けた助けを求める声ではなかった訳だ。
なら、なぜ俺にも声が?
――俺だけじゃなかったんだな。俺は今、塔の方角に走っていってる。だが、あの声が誰の声で、かつどこにいるのかも全くわからないんだ!
――そういうことか。
ワシには声の主はわかるが、どこにいるかまでは特定できる力はないぞ!
イノーさんでも場所の特定ができないんじゃ、詰んでないか?
……でも、最後まで諦めたくない。
イノーさんは声の主がわかるらしいじゃないか。
もしかしたら、俺が知っている人かもしれない。
まずはそこからだ!
――わかっているなら、俺にも教えてくれ!
探す手がかりにしたい!
あと、参考までに、干渉存在が俺とエラー以外にどのくらいいるのかも教えてほしい!
――おいおい、君もばっちり関わりをもっていただろうに。
声の主は、さっきも話題になってたアナだよ。
それと、二つ目の質問だが……現在干渉存在に登録されてるのは、君とエラー以外に総統とアナくらいなものさ。
そんなに大人数を登録しておくと、ワシの負担が大きくなるからな。
俺は、共有してきた誰かが『アタイ』と名乗っていたことを思い出す。
確かに、アナの一人称も『アタイ』だった。
色々わかってきたのはいいが、肝心の居場所がわからない。
これでは救えない。でも、救いたい――。
俺にはもともと何もなかった。記憶もなければ、信念もない。
それなのに、何かに導かれるように
目が覚め、出逢った幻の兄弟。多くの時を共に過ごし、絆を育み、打ち立てた『目標』と『約束』。
でも、まだ。何にも成し遂げられちゃいない。
俺には、何ができる?
俺には、俺には、俺には……。そうか俺は。
――俺はまだ、何者にもなれていない。
じゃあ、いつまでもそれでいいのか?
目の前の誰かも救えずに、
そんなの腹の虫が治まらない!
――俺は、手の届く範囲の人を助けたいんだっ‼
その時、脳の意識下から外れた口元が、
「万感の思いを抱けし、
今、我が光芒で照らして、その姿を見せん――『
すると、視界にどこかの風景が浮かび上がる。
映し出された長方形の中央、
何かの準備をするアナの姿が、そこにはあった。
現在は、あまり使われていない北の区画にある家屋群の一つにいるのだろう。
あの王都竜討伐戦で、甚大な被害を受けた、例の区画だ。
何となくでも、居場所の方向性がわかればこっちのもんだぜ!
――よくわからないが、アナの居場所はわかった。
彼女は、北区画の生活不全区域にいる。
そこで、何かの準備をしてるみてぇだ!
――どんな手段を使ったのか、皆目見当もつかないが……でかしたぞ、ザビ少年!
ワシも今からそちらに向かおう!
かくして始まった、アナ自殺阻止作戦。
イノーさんとうまく連携を取り合い、アナの窮地を救えるのだろうか。
試験当日まで、残り十五日。
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