2-27.先生の任務(前編)

 得てしてイノーさんに任務ミッションを受けるよう言われたが、内容が何も分かっておらず、少々不安を感じる面も大きい。

いつ、どこで、どんなことをする任務ミッションなのか、エラーが潰れていることもあるし、しっかり確認しておかなくては。


「良かった良かった。

あ、そうそうワシももちろん同行するでな!

君たちだけがに遭わせられることもないぞ」


「おいおい、辛い目ってどういうことなんだ?

流石に怖くなってきたぜ?」


 エラーがまたまともなことを言い出した。さっきまでベロベロだったはずなのに、いくら何でも酔いが覚めたにしては早すぎるだろう。

まさか……。いぃや、それこそ『まさか』だ。

こいつに限って、そんな高度なことをしていたなんて考えにくい。


「まぁ、そう肩に力入れすぎるなよ、エラー。

君たちは今、『修行』をしているようだが、多分この任務ミッションはその一環になるだろう!

大丈夫、きっと死にはしないさ」


 世間話の時間で、近況報告などを行っている時に共有していた情報だった。

『修行』の一環になるってことは、かなり肉体的に負担がかかる系統の任務ミッションなのだろうか、それとも……。


「きっと……?」


 俺は自然と眉と眉の間隔が狭まり、懐疑の視線をイノーさんに向けていた。


「ザビまで怖いという感情を表に出してくるな!

もうこれは決定事項なんだ!」


 まるで癇癪かんしゃくを起こした子供のようにわいきゃい騒ぐイノーさんに対し、完全に酔いが覚めたエラーが対話を試みる。


「わかったわかった!

そんじゃ、概要を教えてくれ、イノー」


 エラーの強めに言い放った言葉が、イノーさんに制止を促す。

腕を伸ばし、動きで落ち着かせようとした。

ドードー、ドードーと、小さな声で囁いている。


「別に興奮などしておらんわい!

……まぁ、そうだな、概要を早く伝えねばなるまい。

だが、内容は至って簡単なもの――『壁外調査』だ」


 『壁外調査』?

『壁外調査』と言っても、別に王都への出入りは禁止されていたり、特段制限されていたりするなんてことはなかったはずだ。

わざわざそのような言い方をするのには、何か理由があるのだろうか。


「ほう、『壁外調査』か。

王都郊外、もしくは遠方に不審な動きでも確認できたのか?」


「まぁ、そんなとこだ。

実は、近頃のドラゴン大量発生に一枚噛んでいるとされる『死の救済マールム』が何かを壁外で計画中であるという神託を受けてな。

あと、言い忘れていたが、今回はワシのも同行することになる。

それでも問題ないであろう?」


「これはまた珍しいじゃないか。

まー、俺もザビも構わないぜ」


 エラーの言葉に合わせて、首をコクコク動かす。

そうか。小さくそう呟いて、イノーさんは力強い目で俺たちを交互に見てきた。

曲がりなりにも美人な部類と言えるイノーさんに、そんな風に見られるのはどことなく恥ずかしい。

一人で顔を赤らめていると、エラーにすねを蹴られた。

『そういう時間じゃないぜ?』と、声には出さないものの、口だけ動かしてわかりきったことを伝えてくる。

エラーに睨みを返しつつも、平静を取り戻させてもらえた。

危ない危ない。魔性の魅力に吸い寄せられるとこだった。


「片付いたか、君たちの茶番は……」


「また、真実を読んだのかよ」


「ザビ少年が赤くなり始めた辺りから面白くなりそうだと思って、つい見てしまったよ。

すまなかったね」


 そもそもエラーの『言葉にしない言葉』があからさま過ぎて、もう真実なんて読むにも及ばなかったのだが。

そんな援護射撃まで添えて、俺を辱めてくる。

いいようにやられてばっかで、悔しいことこの上ない。

どっかで一本取って、ギャフンと言わせたいものだ。


「まぁ、を見たのはわざとだがな」


 こんのアマ!

俺が思いを委ねて、損したわ。

何となく顔だけを見ていたはずなのに、なぜか俺だけ目が合ってドキッとしてしまった。

これも全部…………くっそぉ!


「……さて、話を本筋に戻そう。

日程は今日から数えて、三週間後。

場所は北の方角にある、死に絶えた町――エイム・ヘルムだ」


「え、エイム・ヘルムだって⁉」


 誰よりも早く、誰よりも大きな声で反応したのは誰でもない俺だった。

部隊長様が二人してこちらを驚いたように見つめてくる。


「なんだ、急に大きな声出して。

なんかエイム・ヘルムに思い出でもあんのかよ!

あそこは本来なら口に出すことすらも忌避されるほどの、やべーところだぞ」


「そうだぞ、ザビ少年。周りを見たまえ……」

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