2-18.太陽の思惑

 アタイはアナ、アナ・ロベルタだ。ちょっと前に、シショーから教えてもらった存在に付きまとっている。

シショーは、ある時からずっとよくしてもらっている、人生の先輩だ。

『我世』では、誉れ高き第四部隊、その部隊長の任を賜っていて、言わずもがなの超絶優人エリートと言える。

 そんなシショーはこう豪語していた。


――あの仮面を付けた彼は、凄まじい力をもっているぞ。

俄かに信じがたいが、彼はきっと『神種ルイナ』だろう。

ワシの魔法、『炯眼ペネトレイト』は必ず真実を炙り出すのである。

だから、ぜっっっったいに外れることはないぞ。ノッホッホッホッホッホッホ。


 シショーは人呼んで、『探真者』。シショーに掛かれば、どんな真実も思いのままに手に入れることができる。

更に、能力の覚醒によって、その真実を干渉存在に登録した人物に共有することもできるのだ。

その伝でアタイに情報が渡ってきた。

シショーについての事柄はいっつも反芻してるけど、用語の意味までは考えてなかった。

 折角だし、おさらいしてみよう。

まず、能力の覚醒とは、単純に魔法の練度が極まっている状態のこと。

練度が極まることで、元の能力の発展的、もしくは特異的な向上が期待できるらしい。

発展的っていうのが、エラーのような『強筋ブースト』による、瞬間移動のような芸当のことで、あれは筋力が上昇した延長線上で起こる能力の向上。

特異的ってのが今回のシショーのような『炯眼ペネトレイト』の例。

ここでは、干渉存在が大事になってくるんだけど、結構複雑だから難しい。

干渉存在は『探真者』のみが設定できる人物のことで、脳の中を共有してより多くの真実を暴く手がかりとするのだ。

一つの脳で処理する情報が増えるためかなりの負担が生まれてしまうのが欠点だけど、使える場面は多々ある。

恐らくこれだけでは全部を理解できていない。

それでも、きっとこれから使っていく場面も出てくるだろうから、その都度考えていこう。

シショーの話は魅力的だけど、それが頭の中で処理できるかは別の話だ。

 あと、言い忘れてたけど、アタイ達は元々お兄さんが魔法を二つ使えることも、それらの魔法の内容も全部知っていた。

あんなに驚いたのは、演技であるに他ならない。

早期に指摘することは大きな危険リスクになる可能性があると判断したから、自ら告白してくるまで待っていた。

付きまとっているのは、もちろんお兄さんに利用価値があるからだ。

アタイはアタイの望みを叶える。だから、待っていて、リア――。




✕✕✕




 いつも通り、起床は開静時かいじょうどき

咽るような草藁の臭いで、熟睡などできる余地は一切なかった。

もう何日も経っているというのに、一向に慣れる気配がない。

きっとここでの生活が終わるまで、この気持ちは続いていくのだろう。

建付けの悪い扉から漏れる光に照らされて、宙に舞う埃がよく見えた。

アナはもう王都へ繰り出す準備を終えて、馬小屋の掃除に取り掛かっている。

先ほど、俺の魔法を踏まえた『手柄先取り大作戦・改』の内容が発表された。

条件があるため、運がかなり作用してくるところが懸念点だが、これまでのように無策で飛び込んでいくよりは絶対に効率がいいはずだ。


――この作戦の肝は、『回顧リコレクト』だ。

発動条件である目を合わせることがうまくできなければ、作戦は失敗に終わる。

順を追って説明しよう。

まずは、特定の場所で見張り、事件の火種を見つける。次に、その火種が着火されるまで待つ。

ここまでは、これまでと同様の手順だ。違うのはここからで、着火された一瞬が全ての勝負の分かれ目となる。

火の手が上がった時、事態を鎮静化せんがために現れるであろうエラーの目を、コンマ数秒の世界で捉えるのだ。

そうして『回顧リコレクト』を用い、動きを止め手柄を横取りすると言った算段である。


 良くも悪くも『回顧リコレクト』次第なところが大き過ぎる。

だが、魔法の存在を知られてしまった以上、使わないという訳にもいかない。

魔法が使えることが住民にわかれば、忽ち大騒ぎになることは間違いない。

ひいては、短期決戦が望まれる……と、力説された。

と、ここで一つ疑問に思った人がいるかもしれない。

回顧リコレクト』の場合、使っても周りの人には気付かれないのではないのか。

気付かれることがないのなら、なぜ短期決戦である必要があるのか、と。

俺も短期決戦が好ましいと聞いた時、少し腑に落ちなかった。

気になってアナに尋ねてみたが、そんなに納得感のある回答は貰えなかった。


――外的に魔法として何かが顕れなくとも、魔法は普通の人の肌に痙攣を起こさせるらしい。

その痙攣には魔法によって差異が出るという。

古い文献に書いてあることではあるが、博識な人は知っているので念には念を入れたいのだそうだ。


 こればっかりは、試してみなければ分からない。

信じられるものも今は皆無なので、とにかく言われたことを素直にやってみることにする。

朝の冷気に当てられてカッチカチになった麦餅パンを無理やり胃袋に流し込んで、ようやく王都に向かう手筈が整った。

今日こそ、エラーを捕まえて、修行の依頼をする。

その決意を胸に、小屋の扉を全開まで押し開いた。

眼前に昇ってきた太陽が飛び込んでくる。

大きく息を吸い込んで、俺たちは『目的』への歩みを踏み締めた。

試験当日まで、残り三十五日。

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