『修行』編Ⅱ①

2-13.王都への道

 風がそよぎ、草木が踊る昼前の道。

俺は今、王都を目指し歩いている。

仮面をつけている理由は単純明快、顔がバレてはいけないからだ。

エクの中で、俺は死んだことになっている。

これからそのエクが指揮する組織の入隊を目指すのだから、当然正体を隠さなければならなかった。

今からつける必要はないかもしれないが、慣れていくためにもつけることにした。

エイム・ヘルムは景観なり、衛生上の問題なりで、人々から排他されており、気にする必要はなかった。

聞いた話によると、エイム・ヘルムには入ることはもちろん、近寄ることもやめた方がいいという暗黙の了解があるようだ。

そんなこともあって、俺は仮面をつけていなかった。

 一番危なかったのは、一度何者かの手によって王都竜討伐戦への参戦が余儀なくされた時だ。

ドラゴンが大暴走していたことで王都の人々に顔を見られなかったのは、正に不幸中の幸いだった。

例え王都の人々に顔を見られたとしても、ザビが死んでいることを知らないだろうが。

でも、どこで知られるか分からない状況で、顔をさらして行動するリスクは考えるまでもなく高いものだった。

 今から会うつもりのメガネ野郎は、筋骨隆々の恵まれた体格をもつ、四十代くらいの男だった気がする。

よくわからないメガネをかけ、頭はまさかのスキンヘッドで、いかにも強そうな見た目をしていた。

俺があの時強かったかどうかは分からないが、間違いなく彼はだった。

王都で会ったという以外に、何の情報もないので実際会えるかどうかすら怪しい。

もはや名前すら知らないという、実質の死刑宣告まで食らっていて、どうやって見つけようというのか。

でも、もしその姿を発見することができたなら、俺は『勝ち』を確信してもいい。

なぜなら、彼の風貌は一目見たら忘れられないほどに奇抜で、特徴的だからだ。

まず誰もが一番に目をつける、綺麗に刈り上げられたスキンヘッド。蟀谷こめかみのところにはドラゴンの入れ墨が彫ってある。

お次はセンスを疑いたくなる常盤ときわ色の丸メガネ。小さめのそれは、オシャレでつけているのか、本当のメガネとして使っているのか、素人目からすると全然分からない。

それからサイコパスっぽさ全開の、優しそうな垂れ目。実際に彼は目尻を垂らした顔から一切変化させることなく、ドラゴンに畳みかけていた。

更には、鍛え上げられた肉体を強調するかのような上裸姿に、少々肌寒かったにも関わらず着ていた、こちらも濃い緑系統のハーフパンツ。腰元にはジャラジャラと銀の装飾が釣り下がっていた。

また、背中には岩をも容易く断ち切れそうな大剣が携えられていた。

こんなにも主張の強い見た目、誰が見ても一度で脳に刻み込まれるだろう――。

 そうこう考えているうちに、王都までやって来ることができた。

王都には『我世』の本拠地が存在する。

『我世』に掌握された世界である以上、『我世』によって都市運営されるのは当たり前のことだった。

気になる都市運営計画だが、『我世』は基本的に全て人々の自由に帰依する方針を掲げていた。

要するに、

町の出入りも、商売をどこでするかも、勝手にやっていいことになっているのだ。

そんなんじゃ世界に秩序が無くなって、狂ってしまうじゃないか。そんな意見を抱いてしまうのも、無理はない。

だって、俺でさえオズにその話を聞いた時、正気か⁉と聞き返してしまったのだから。

でも、それで問題ないのだと言った。なぜかなんていうのは、簡単な話だ。


「窃盗だあああああ!

誰かそいつを捕まえてくれええええええぇぇぇぇ‼」


 『我世』が管轄する地域で、何か問題事が発生したとき――


「俺に任せろってんだよ‼

クルクルパーマのイカしたオッサン!」


 真っ先に駆け付け、彼らが、そう――


「チッ、もう捕まっちまった‼」


『我世』が全てを片付けてしまうから。


「俺たちの世界で悪事を働こうなんて百年、いや『一千年』はえーんだよ‼」


 俺はその姿を見て、住民たちと共に歓喜した。

そこには蟀谷こめかみドラゴンの入れ墨を入れたスキンヘッドで、常盤色の丸メガネをした、筋骨隆々な男が立っていたのだ。


――メガネ野郎、久しぶりだな。


 目と鼻の先にある王都に到着し、一番苦戦すると思っていたメガネ野郎探しは、速攻で終わりを向かえた。

窃盗犯を華麗に捕まえるその雄姿を、住民の賞賛が祝福していた。

圧倒的な異彩と実力を兼ね備えた彼に、話を聞いてもらえるのだろうか。

試験当日まで、残り三十九日。

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