2-7.一人目は
残された二か月の間に、できる限り対人戦闘スキルを身に付けなければならない。
その裏では
ただでさえ忙しい日々を過ごすことが決まっているというのに、オズは修行相手に当てがないと言う。
だからと言って、俺に当てがある訳もなく、早くも詰みかと思われたその時、オズはとんでもないことを口に出した。
「とりあえず相手がいないのなら、私の『
「魔法って人に教えられるもんなのか? 教えられるんだったら、教わりてーけど」
「やったことはないヨ。なんせずっと一人ぼっちだったしネ。
まぁ、『
「なんかわからねぇが、とにかく伝もねぇんだ! 俺に『
そうして、俺は『
魔法だけではなく、組手も並行して行い、総合的な対人戦闘技術の向上を目指していく。
✕✕✕
とはいうものの、魔法の修行でどんなことをするのか、皆目見当もつかない。
無難なところで言えば、相手の記憶に干渉する
流石にベタ過ぎて、違っていそうだ。
未だエクとオズしか使っている人を見たことのない魔法。
そんなものを扱えるようになるには、何かとんでもない修行を積まなければならなくなる。
そんな考えが過ぎり、些か不安が大きくなってきた。
「『
だから、まず『
「おもっきしフッツーじゃねーか! なんか無駄に怖がって損したわ‼」
こうして、
だから、まずは身近な感覚から
人間には五感というものが存在する。外界を感知するために備わった感覚機能で、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五つのことを指すものだ。
実際に触れた物、感じた物の方が
「じゃあ、一発目は私の農園で育てたデレクタマからネ。これを食べて、実感によっての
デレクタマは甘味とほのかな酸味が特徴的な果物だと聞いている。
俺も初めて食べる果物だから、まだどんな味がするのか想像はついていない。
見た目は茶色っぽい皮に包まれた、丸い果物だ。少し硬そうな皮の部分は食べられないらしい。
木に点々と実をつけ、寒くなってくる頃になると収穫できるのだという。
食べやすいようにカットされたデレクタマが調理台の上に並べられた。一つ一つに短く先の尖った木製の細い棒が刺さっている。
暇を持て余したオズが、余った支給品の木材で作ったみたいだ。オズの器用さは真似できないが、見習いたいところである。
今度作り方でも教わってみよう。
それと、今回使うことにした場所は、『禁忌の砦』だ。簡易的に設置された
穴の開いた天井から差し込む光に照らされ、果肉が煌めいている。甘くて清々しい匂いが鼻腔をくすぐり、腹を空かせていたことを強く自覚させる。
「そんじゃ、頂くぜ!」
勢いよく果実に刺さった棒を手に取り、口に運ぼうとすると、ピシャリと放たれた言葉があった。
「そこは、頂きます!でしょネ~」
オズは真面目、かつ几帳面だ。だからこそ、辛い運命も投げ出さず、きっちり熟してきた。
過去の情景が瞼の奥底で静かに映写される。
「そうだな。頂きます!」
「はいネ~!」
その反応を見て、また新たに気を引き締める。これが、『我世』入隊に向けた第一歩目だ。
「いや、酸っぱああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ‼」
途轍もない酸味が舌の細胞一つ一つを襲い、そのまま気絶しそうになった。
そんな俺の様子を見て、オズは真意を測りかねるといった様子でキョトンとしている。
今、分かった。オズは味音痴だったんだ。
俺の『我世』入隊への道はまだ始まったばかり。
試験当日まで、残り五十九日。
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