『修行』編Ⅰ

2-6.試験の壁

 ――各地に出現するドラゴンを討伐するために、そして人間の権利を主張して『神様』に抗うために編成された特殊部隊、『我世がせい』。その勢力は次第に拡大し、世界の約九割を掌握している。

 世界の約九割と言えば、もうそれは支配と言って差し支えない。

そんな組織に入隊するためには、何が求められるというのだろうか。


「『我世』入隊試験は大きく分けて二つの項目が存在するネ。

一つは『筆記試験スキエンティア』。単純な学力であったり、この世界についての基礎知識であったりが問われる簡単な試験だヨ。

そして、もう一つ。そっちの方が大変なのサ……」


 そこで一回、言葉を区切った。

俺の場合、この世界についての基礎知識も不安要素ではあると思うが、それ以上のものがあるらしい。

嫌でも姿勢を正してしまう。


「その二つ目の項目は――受験者同士による、『奪爪戦プグナ』だヨ」


 奪爪戦プグナだって?もちろん、俺に耳馴染みはない。脊髄反射で口を挟む。


「一体どんなことをやんだぁ?」


 オズは待ってましたと言わんばかりに、にやりと口角を上げる。オズの頬に一筋の汗が伝った。

心なしか苦し紛れの笑顔のように感じた。


「受験者には五つずつ、削られたドラゴンの爪が与えられるネ。

そして、その爪を奪い合って、先に十個集めた人からその試験の通過となり、高得点が付けられていくんだヨ。

爪集めには、どんな手段を用いても構わない、ただ集めた結果だけが全てだと言われているネ。

大体は対人戦での決着になるって聞いたヨ。で、それら二つの試験を合わせた点数で合否が決定されるのサ~」


 奪爪戦プグナとはそういうものだったのか。内容にも一切の既視感はなかった。


「どんな手段を用いても構わない」か……。これはもしかすると、命の危険もあるかもしれない。

そう心の中で考え、一人慎重に行かなければと決意を新たに固めていると、オズはこう続けた。


「それから二つの試験における得点にも、3:7の比重がかかっているんだヨ。

7の方が奪爪戦プグナサ。つまり、対人戦闘スキルが必須だってことネ!

試験は今日から二か月後、だからその二か月間は修行をして鍛えてもらうヨ~」


「なにいいいぃぃぃぃいいい‼」


 俺はもう知っている。この任務ミッションに拒否権がないことに。

二か月間の修行を絶対に遂行しなければならないことに。

でも、待てよ。俺は竜との戦闘に対応できるほどの『やり手の冒険者』だったはずだ。

今さら修行なんて必要なのだろうか。


「俺はここの町の奴らに『やり手の冒険者』って言われてたはずなんだが、それでも修行が必要なのか?」


 純粋な心で聞いたのに、オズは心底可笑しそうな顔をして笑うのを堪えている。

何が可笑しいんだ?俺は至って真面目に聞いているだけなのに。


「そんな変な反応することないだろうよ! おい、笑ってんじゃねぇ‼」


 さっきまで堪えていた笑みが一気に溢れ出した。


「ハッハッハッハッハッハ! だって、この町の奴らって……ハッハ!

この町に住んでるのは今も昔も私だけネ~」


「……は?」


 状況が理解できない。なぜドラゴンと戦っていた時、俺はあんなことを言っていたんだろう。

これも赤色の光の影響?

とにかく俺は強い訳ではないのかもしれないことが発覚した瞬間だった。


「でもよ、修行って言っても、行く先に当てとかあんのか?

それがなきゃしたくてもできねーだろうよ」


「ないヨ~」


「え。今何て?」


「だから、ないヨ~って言ったヨ~」


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ‼」


 かくして、修行相手を探す旅に出ることが確定した。俺は『我世』に入隊することができるのだろうか。

試験当日まで、残り六十日。

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