2-4.怪奇の裏に

 これまで文字通り死闘を繰り広げてきたドラゴンがなぜここにいるのだろうか。

開いた口が塞がらない俺を尻目に、オズが得意げに口を開く。


「実は私、『神様』の神託を受けた『神種ルイナ』と呼ばれる存在なんだヨ。

神種ルイナ』は、それぞれ何かしらの能力をもつワ。

私の場合、それが『回顧リコレクト』だったってことネ~」


 『神様』の神託を受けた『神種ルイナ』に、何かしらの能力……?

状況が全然分からない俺は、後ろにいるオズに詰め寄る。


「順を追って説明してくれ! 俺にはなんのこっちゃさっぱり見えないぜ。

今言っていた内容とドラゴンがここにいることはどんな関係があるってんだ?」


「まぁまぁ、そう焦るなネ。端からそのつもりだヨ~」


 そう前置きをして、オズは事の詳細を教えてくれた。


ドラゴンが『神様』の手駒であることは知っているネ~?」


「あぁ、王都でのドラゴンとの戦闘中に見た夢の中で知ったぜ」


一瞬、オズが肩を微動させる。瞳孔が少し開いた気がした。だが、何事もなかったかのように話しを続ける。


「『神様』は、そのドラゴンの管理を一部の『神種ルイナ』に任せているんだヨ。

それがこの私、オズだったってことネ~」


 なるほど、そういうことか。いや、待てよ。

じゃあ、ドラゴンを暴れさせて人間を殺しているのは――。


「おい、てめぇ!

お前は、自分は管理する立場だからって胡坐かいて、人間たちが殺されていく様子をただ眺めてたって言うのか⁉」


 俺は勢いよくオズの胸ぐらを掴み、顔を近づける。

こんな最低最悪な行為に目を背けてやれるほど俺は賢くない。このくらいの道徳は守らなければならないだろう。


「ちょっと待ってサ! それは誤解だネ。

ドラゴンは、私が面倒を見ていた四年間、ずっとここで大人しくしていたヨ。

四日前、何かを見つけたかのように空を見上げ続けていたネ。

私が不思議に思って見ていたら、急に飛び上がってどこかへ行ってしまったんだヨ~」


「そんなの、信じられっかよ‼」


 俺は激情のあまり、声を荒げる。

罪のない人間が無残に、理不尽に蹂躙される現状を、ただ傍観して見ているなんて考えられなかった。


「私、王都でドラゴンと一戦交えていたことなんて、ザーの口から聞いて初めて知ったネ。

私はこのエイム・ヘルムから出ることができないし、ここには外の情報が月に一度しか入ってこないのヨ~」


 必死に平静を装って、高説を垂れている。これで見逃してもらうつもりだろうか。甚だおこがましいにも程がある。

まだ、足りない。もっと詰め寄らなければこいつはまた同じことを繰り返してしまう。


「じゃあ、お前からは外に干渉する手立てがないってことか。

でも、それは信じられる根拠にはなり得ねぇぞ‼」


「わかってるヨ! でも、伝えておきたかったネ。

私がしたくて、この神託に従っているわけではないことをサ。

私にはどうすることもできない、止めたくても『神様』の言葉にしかドラゴンは耳を貸さないんだヨ。

私に、自由は……自分の人生なんてないのネ…………」


 オズはさっきまでの自信満々だった顔を、自分の足が見える角度にまで下げている。心なしか声が震えていて、憐憫の念を抱かせる。

なぜだ、もっともっと責め立てて罪を償ってもらいたいのに、俺が悪者みたいだ。

本当に、四日前急に飛び出していったんだろうか。俄かに、不安になってきた。

もしかしたら、俺はとんでもなく心を傷つけてしまったのではないだろうか。


「わかった、一旦落ち着こう。オズ、お前のことをもっとちゃんと教えてくれよ」


 そう言って、俺はオズの胸元から手を引き、そのまま手を掴んで砦の中へと入っていった。

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