2-3.廃れた家路
俺達はエイム・ヘルムの町中を歩いていく。
俺達がいた白い部屋は『忘れじの間』という名で、いなくなった俺が気付いたらここにいたのだそうだ。
四日前、オズは脳に疼きを覚え、何故か無性に
その衝動に逆らえぬまま、エイム・ヘルムの町を歩き続け気が付けば、この白い部屋の前にまで来ていた。
そして、中に足を踏み入れた時、直接脳内に流し込まれるようにこの部屋が『忘れじの間』であることを告げられたのだそうだ。
なんとも不思議な話ではあるが、
誰がどのような用途で作ったのかは不明だ。
町での位置的には、西南ブロックの外から二区画目にあったらしい。
エイム・ヘルムは円形の町であり、方角ごとに割り当てられる形で八つのブロックに分かれていた。
中心部からは少し外れていることから、オズ自身そちらにはあまり足を運ぶことはなかったという。
だから、知る由もなかったのだとか。
通常時や関係のない者がいた場合には見えなくなる仕様になっているようで、使い時によっては武器にもなりそうな予感がした。
どうしてそんなことが分かったかと言うと、俺が眠りから覚めなかった三日の間に、様々な角度から検証をしてくれていたみたいだった。
もう何度目かもわからない感謝の言葉を述べそうになったが、オズの顔を見てグッと唾を飲み込んだ。
そう何度も言ってしまっては、本当にありがたいと感じた時にかける言葉がなくなってしまう。
終始喋るのを止めないオズにテキトーな相槌を打ちながら、崩れかけた家屋群の隙間から見える砦の一部を眺め続けていた。
俺達は中央にあるという拠点を目指して、
そういえば王都も
そう、このエイム・ヘルムは、そのくらい
とりあえず目についたのは、ところどころガラス窓が割れていたり、壁が黒ずんでいたりする家屋の数々。
建物の作りとしては、童話の中でよく描かれる木組みの家で、お洒落さがあるばかりに余計感じるのだろう。
地面のひび割れも酷いもので、おそらく整備後に一度も点検や修理が行われていないのでは?と疑う心が溢れてやまない。
風を伝って漂ってくる
とにかく鼻が曲がるほど臭い。
総じて、ここは人が住むべき場所ではなかった。
その結論に至るとすれば、俺がここにいたのは何か
自らここに住もうなんて、どんなに頭がおかしくても考えることはない。
「俺はどうしてここにいたんだ?」
白い部屋を出てから口を開いていなかったからか、驚いた様子で俺を見てきて、そして、何てことのないようにサラリと教えてくれた。
「ザーが生きていることって
エクにとってザーは不要な存在になって……だから殺そうとしたんだネ。
そして、その殺害は成功したことになっているのヨ。
ということは、後はもう言いたいことは分かるよネ~?」
「つまり、成功したと思い込んでいたのに失敗しちまってたから、落ち込んじまうってことかぁ!」
「…………ザー、話聞いてたネ~?」
「……はぁ? ちゃんと聞いてたじゃねーか。
エクが俺のことを殺したくて、何とか殺すことには成功。
そんでもってエクが何を思うかって言うことだろ?」
「なるほどネ。うん、わかったヨ……」
その後、いくつかの伝え方を試してもらう中でようやく理解することができた。
「なんで、こうゆう時にザーの天然は発動しちゃうんだろうネ~」
「こいつが世にいう天然ってやつなんだな!
頭にぶち込んでおくぜ‼」
「別にこんなの覚えなくたっていいのにサ。
そうそう、アレコレ話しているうちに拠点に到着したヨ~」
その拠点を前にして両の手を広げるポーズを取る。傍から見れば、観光客のように見られるのではないだろうか。
そのくらい、この地獄に限りなく近い町に、似つかわしくない格好と表情だった。
「おおっ、ここかぁ! って、ここにはなんか『デジャブ』を感じるんだけどよぉ……」
目の前には今にも崩れ落ちそうな、巨大な石の塊が置かれていた。
どうやら、建物ではあるらしい。
彼らの身体の三倍以上はある鉄扉からは、尋常ならざる
「これって、まさか……」
「そう、そのまさかなのサ。
これはザーが一回死に絶えた場所――『禁忌の砦』だヨ~」
やっぱりそうだった。
この町を眺めてみた時に、大規模な建築物はこれくらいしかなく、最初に『禁忌の砦』を中心に作られたことを聞いていたからなんとなく察していたところはある。
「それじゃ、いらっしゃいヨ!
我が拠点、『禁忌の砦』へネ〜‼」
オズが溜め込んだ力を開放するように、力強く鉄扉を押し開く。
ギィーっと、物々しく、そして何より悍ましい音が俺の鼓膜を震わせた。
何一つ変わっていない。でも、一つ変わったとすれば、心強い仲間で、優しい親友で、温かい家族がいること。
オズが開いた扉の中へ、意気揚々と一歩踏み出す。
すると、そこには、砦でありながら天井には大きな穴が開いていてそこから差し込んだ日の光に、
その姿を見て、俺は息を吞む。
「なんでここにいるんだ――
人類の永遠の宿敵が、我が家で俺の帰りを待っていたのだ。
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