2-2.『今』を生きる記憶

 そういえば、ずっと俺ばかりがオズに聞いてしまっている。少しは相手の話も聞いてみたい。

オズについて分かっていることはそのミステリアスな出で立ちと、独特な喋り方、『回顧リコレクト』という魔法のようなものが使えることくらいだ。

俺はそういった魔法の類は使えない。

そもそも魔法を使う人はこの世界にはいないと思っていた。なぜなら、これまでそういったものを使う人を見たことがなかったからだ。

ドラゴンとの交戦中に記憶の中で、エクが使っていたので一度は見たことになるのだが……。

それでも俄然、興味が湧いてきた。


「おい、オズはなんで魔法みたいなものが使えんだ?」


「よく覚えてないけれど、物心がついた時にはもう使えていた気がするワ。

ザーの不死だって立派な魔法のようなものじゃないノ~?」


「物心ついた時からか……。励ましてくれて、ありがとさん」


 何か条件なり何なりがあるのだろうか。

どうしたわけか、ほとんどの記憶が消滅しているから、この世界について何もわからない。

だから、頭の中が謎だらけになってしまう。全部全部わかるようになる時が来るのか、少し不安にさえなる。

でも、それでも――。


「無理だなんて言わないんだ。俺は『答え』を追い求め続ける」


「急にどうしたってのヨ。ポエっちゃってサ~」


「いぃや、何でもねーよ!」


「そかネ~」


「そかヨ~」


「真似すんなネ~」


「ごめんネ~」


「何それ、使い方違ってるヨ~」


「そかそかネ~」


 二人顔を見合わせ、三秒間の沈黙。そして、オズが噴き出した。


「ハッハッハッハッハッハッハッハ!」


 ザビも釣られて笑い始める。


「アッハッハッハッハッハッハッハッハ!」


 一頻り二人で笑い合って、落ち着いた時。俺はポツリと呟いた。


「昔もこうやって二人で顔突き合わせて爆笑してたんかな。

俺、記憶がねぇから、何にもないんだ。空っぽなんだよ」


 らしくないことを話してしまったことに恥ずかしさを覚え、訂正しようとすると――


「あぁ、爆笑してたヨ。大爆笑だったネ。

でもサ、記憶って過去だけが記憶じゃないヨ。だからさ……」


 少しの間が入る。

あまりの羞恥心から下を向いていた俺が、気になって顔を挙げるとそこには満面の笑顔のオズがいた。


「今も未来も変わらず記憶になるじゃないノ?

昔が思い出せないなら、今を生きて未来に繋いで記憶にすればいいんだヨ~」


 この白い部屋に来てから、オズには助けてもらってばっかりだ。

『昔から』オズはこうだったんだろうか。何一つ思い出すことはできないけど、でも。

俺は今、『今』を生きている。過去が無くても、未来があるならそれでいいじゃないか。


「ありがとさん、もう何回言わせんだよってんだ!」


「勝手に感謝してんのは、そっちネ。ほら、そろそろ外に出ようヨ。

後は拠点に戻りつつ、『我世』入隊計画について話していくネ~」


 ベッドから起き上がって、小さな部屋の中を歩く。

そして、1つしかない入口の前に立つと、オズに自ら外に出ることを促される。

言われるがままにその扉を開けると、そこにはオズの『回顧リコレクト』で見た、あの廃れた町エイム・ヘルムの光景が眼前に広がったのだ。


「『禁忌の砦』を中心に形成された、人々から排他される町、エイム・ヘルムにお帰りなさいネ~!」


 なんだって?『禁忌の砦』はここに立っていたのか。これすらも覚えていなかった。

まず、十二歳の時に行ったドラゴン討伐作戦のことだって覚えていなかったのだから、無理はないかもしれない。

そんなことを考えながら、エイム・ヘルムの腐った土に片足を踏み入れていった。

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