1-6.困惑の記憶
※ここから現実パートとなります。人称も一人称視点です。
目を覚ますと、雪を想起させる、真っ白な天井がいの一番に飛び込んできた。
あまりの眩しさに、俺は目を細める。
どれほどの時間が経ったのだろう。
確か、
ぼんやりとその夢の内容を思い出して、ゾッとした。
「あ? 俺、夢の中で死んでなかったかぁ⁉」
俺はなぜ、今生きているのだろうか。改めて状況を確認していく。
起き上がって周りを見渡すと、そこは白い大理石に囲まれた、四角い部屋だった。
その真ん中に置かれたベッドに、元々の服装のままで横になっている。
かなり土に塗れていたはずなのに、なぜか汚れ一つなくなっている。
上には絹でできた布が一枚かけられていた。
身体には目立った外傷はなく、とても
どうにも違和感が拭われず、どうしたものかと困り果てていた。
夢の前に対峙した竜はあの後どうなったのか。
夢の中で死んでしまったのに生きているのはなぜなのか。
うんうんと唸っているところに、一人の男がやってきた。
「やっと目覚めたんだネ、ザー」
ねっとりという表現がしっくりくる喋り方で、俺に話しかけてきた。
顔立ちは中性のそれで、整った鼻筋が特徴的だ。
それでいて深碧の髪には目を惹かれてやまない。
オールバックで艶めかしくきめられた姿は、美しいという言葉がよく似合うだろう。
「お前は一体誰なんだ?
俺はどうして生きているんだ? あと……」
有識者が現れたと思った俺は、ここぞとばかりに矢継ぎ早に質問を飛ばす。
その反応を見て、その細い目を更に細め、頬を赤らませる。
「ちょっと待ってヨ。
積極的なのは、昔から大好きだけど今は落ち着いてネ~?」
今、「昔から」という言葉が聞こえた気がする。
俺には、こいつとの記憶に思い当たる節が何もない。
もし、本当にこいつの言うことが正しいなら、俺の記憶は所々無くなっているところがあるのだろうか。
「すまねぇ、取り乱した。
で、お前の名前は何て言うんだっけか?」
咳ばらいを一つして、仕切りなおすようにこいつの名を聞いた。
すると、開けたおでこに左手を当てて、こう告げてきた。
「私の名前は、オズ。
俺の一個下の弟……。今の今まで記憶から抜け落ちていたピースだった。
どうしてそんなにも大事な情報が頭に残っていないのだろう。
そもそもこいつの言っていることが本当のことなのか確かめることはできない。
だったら、こいつと話していても埒が明かない気がする。
何かと理由をつけて、どこか別のルートから現状の打開策を考えよう。
「おい、テキトー吐いてんじゃねぇよな?
俺に弟がいた記憶なんて存在しないんだが……」
「まぁ、いきなり出てきてそう易々と信じられるわけないネ。
じゃあ、私のとっておきで証明してあげるヨ。
握手をしましょう、それで全てがまるわかりネ~」
オズの存在自体を否定して、この場から立ち去ろうと思ったのに、早速見透かされた。
でも、最後の「全てがまるわかり」という文句には多少なりとも興味を持つ。
今は分からないことだらけだ。少しでも情報が欲しい。
そう思った俺は、望みが薄そうではあるが、試してみることにした。
オズが俺に向けて左手を突き出してくる。俺もそれに呼応して、左手を伸ばす。
お互いの掌が重なり合った時、ゆっくりと握り合った。
「……では、始めるネ。『
俺たちは、記憶の大海原へと舵を切った。
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