1-2.古の禁忌

※ここから三人称視点です。



 ――これは、昔の記憶。


「ザビ、何やってんだよ。

そっちは危ないってお父様が言ってただろ」


 まだあどけなさが残るものの、凛とした気品を持つ青少年の声。

眼鏡をかけたその容姿から、高い知性も窺える。

記憶が混濁して、誰だかは思い出せない。

でも、過去に関わりを持っていた。これだけははっきりとわかる。


「えぇ、そうだっけか?

でも、危ないって言われたら行きたくなるだろぉよ!」


 齢十二歳ほどのザビだろうか。

最初に喋った少年に比べ、精神的な幼さが手に取るように感じられる。

好奇心旺盛で、厄介ごとに首を突っ込みたくなるお年頃らしい。


「うぅ。じゃあ、ちょっとだけだぞ‼」


 青少年な声の主は、押しに弱いようだ。

自分からどんどん切り込んでいくタイプではないのだろう。

いや、それは少し違うような気がする。

ただ、周りの人たちが傷付いてほしくないだけの、優しい人間なだけかもしれない。


 彼らは、危ないと言われていた場所――『禁忌の砦』に辿りついた。

二人横に並んで、そびえ立つ石の城と対峙する。


「なぁ、この辺でめとこうぜ。ザビ」


 青少年な声の主は、あくまで大人である。現実的な見解を、ザビに伝えた。

しかし、これで止まるほど、ザビは大人しくない。触れ合う肩を引き剝がして三歩進む。

そして、振り返って指を突き出し、こう宣言する。


「いぃや、俺は行く。ここで逃げたら『負け』な気がする。

イヤだったら大好きなママのとこにでも帰んな?

臆病なエク兄ちゃん」


 強い語調だった。その目は殺気立ち、捉えた者に恐怖を植え付けるには十分だった。

思わず、ゴクリと唾を飲み込む音が響く。

エクと呼ばれた少年は静かに逡巡し、やがて観念したようにポツリと呟いた。


「……もう好きにしろ。どうなっても、知らないからな」


 エクも同じように三歩進み、共に並び立つ。

ザビは勢いよく百八十度回転し、仁王立ちして砦を見据えた。その目は興奮に満ち溢れている。

これから、大いなる冒険をする。

その高揚感が、ザビをどこまでも熱くさせた。

そうして、二人は『禁忌の砦』の攻略に乗り出した。


 彼らの身長の四倍はある鉄扉からは、尋常ならざる覇気オーラが放たれている。

その恐怖の根源たる扉を前にして、そっと目を閉じ大きな深呼吸を一つ。


「うっし! 突撃開始だぜっ‼」


 溜め込んだ力を開放するがごとく目を見開き、力強く鉄扉を押し開けた。

ギィーっと、物々しく、そして何より悍ましい音が鼓膜を震わせる。

その音が絶望の祝杯賛歌ファンファーレであったことを、その時二人は知る由もなかった。

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