第一章 『一千年』に立ち向かう者達

1-1.竜の暴走

 ここは、エイム・ヘルム。ニグレオス王国の外れにある廃れた町だ。

この男、ザビ・ラスター・シセルは祝福の円舞曲ワルツを奏でるがごとく、その一歩を踏み出した。

ザビは、どこか抜けていて少し情けない。

だが、この男のすごいところは誰もがやりたがらないようなことを、不満一つ漏らさずに淡々とこなしてしまうところにある。


 ザビはどこに向かうともなく、歩き続けた。そして、こんな噂を耳にした。


――王都にて、隻眼のドラゴンの暴走が確認された。

およそ『一千年』に一度の大暴走であり、多くの上級冒険者たちが倒されている模様。


「こんなことを聞いちゃあ、こうもウカウカしてられんな。

さぁ、いっちょ暴れてくっかぁ!」


 ザビのいた町――エイル・ヘルムは王都とさほど離れていない。

ここから行けば、すぐにつけるはずだ。




✕✕✕




 早々に王都に着いた俺は大暴走の様子を見て、思わず息をのんだ。

そこでは、一人の男が自分より何十倍も大きなドラゴンに果敢に攻め込んでいる最中だった。

ドラゴンには腐ったような痕が何か所かあり、既に追い込まれていると見える。

 そして、ふとその男と目が合った気がした。

途端、彼はドラゴンと交戦中だというのに、俺に声を掛けてきた。

周囲の住民は皆逃げて、いないようだった。

建物という建物は破壊され、地面は石畳であるのにまるで野地かのように穴があいていた。


「お前、王都の惨状を聞きつけてきた冒険者なのか?

なら、相当の実力者だろ。……ふふ、面白い。

ちょいと手を貸してくれ‼」


 その呼びかけに対し、当然俺はこう言い放ってやった。


「もちのろんだぜ、メガネ野郎!

お前とは仲良くできそうだ。

まぁ、せいぜい足手まといにならないように努力しなってんだ‼」


 俺は、一陣の風のごとく駆け抜けた。

力一杯に石畳を蹴り上げ、目にも止まらぬ速さでドラゴンに肉薄していく。

小刻みに攪乱サイドステップを決め込み、動揺を誘う。

そして、死角に飛び込んで刹那。

ドラゴンの視線を置き去りにして、渾身の斬撃を叩き込んだ。


「とぉりゃああああああああああああああああ‼」


 俺は名も知らぬ男と共にその両翼を斬り落とした。

視界が朱殷しゅあんへと染め上がる。

何も知らないはずなのに、なぜか俺は妙な『デジャブ』を覚えた。

そんなこと、気にしている暇はない。ステップを踏んで、次の攻撃に移行する。

こう見えて、俺は町の奴らから『やりての冒険者』と見なされていたんだ。


 その時、いきなり目の前が真っ暗になった。

顔から崩れ落ちていった俺に、強い衝撃が走る。

が蘇ってきた。

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