「行ってくる。」

母親に対してボソッと伝えて家を出た。

曇りがかった天気だった。

僕の家沿いには川が通っていた。

川を見ると群れを成した比較的大きな魚が気持ち悪かった。ただ、それをずっと見て写真を撮っていた。見返すことなんてないのに。学校には川を沿って線路に交差するまでの道を歩いていく。

途中、交差点があって朝の通りはかなり多くて渡りにくい。

右を見て、左を見て、右を見るとまた車が来る。多分、信号の感覚でたくさん車が来るのだろう。そして左右がちょうど入れ替わりになるようになっているんだと思う。

横断歩道を渡ればいいのだけど、横断歩道は少し歩かなければいけないしそこまでいくのは朝一の気分を面倒にさせる。

今日はいつにも増して車の交通量が多い気がした。

面倒だったけど、横断歩道まで行くことにした。ああ、だるい。

横断歩道は両方向にある。左側は150m位歩いたところ、右側は100m位歩いたところ。僕は当然近い右側を選択する。

道路の脇には家が並んでいた。店もあまりない場所なので面白みにかける風景だ。そういえばこの前パンケーキ屋が出来ていた。今度行こうと思ったけど誰も誘う人がいないし、男1人でパンケーキ屋になんて恥ずかしくて行きにくい。

母親に買ってきてもらうか。


横断歩道の脇の家の角の石の上に何かが置いてあった。

なんだこれ、そこには半円形の年寄りくさいポーチが置いてあった。

周りを見渡した。

多分だけど横断歩道の先の方を歩いている年寄りのかもしれない。渡してやるか。

僕はポーチを手に取った。

こんな離れた所から大声を出すのは恥ずかしいから直接渡すしかないな。

こういう時に限ってなかなか信号が変わらない。

少し待って、信号が変わったと同時に僕は少しだけ早歩きでその年寄りの歩いていた方向に歩いた。

あれ、いなくなっている。

僕はその年寄りを見失っていた。ここら辺の人か。でもここにまた投げておくのもな。

そもそも遅刻してしまうし早く行かなきゃいけない。やばい。電車に遅れる。

僕の通っている学校までは2駅だけ離れているんだけど、電車が20分に1本しか来ない。だから電車に乗り遅れた瞬間に遅刻確定になる。ほんとくそだ。僕は手に持ったカバンを肩にかけてダッシュで駅に向かった。ポーチはカバンの中に入れた。


放課後、部活に入らない僕は誰に聞かれてもないのに毎日、バイトがある。予備校に行かなきゃと小さな嘘をついて帰っていた。もちろんそんな面倒な事してもいないし、行ってもいない。

成績は比較的良かった。覚えるのは得意らしくてテストに出ると言われたところだけ覚えてなんとか毎回なっている。

そのおかげで周りからは予備校で勉強をしているおかげだと囃し立てられている。

模試は受けた事がないから化けの皮はまだ剥がされていない。多分受けない。学校も偏差値が低くて予備校なんて行く奴なんていないからそこら辺も関係ない。

そうだ、ポーチを忘れていた。何故だかかなり僕はそのポーチに関して返さずにはいられないと思っていた。なんか怖いし中身は見ていなかった。触った感触から札束とか入っていたかもしれないけど怖くて見る事ができなかった。

僕はそのポーチを家の近くの交番に届ける事にした。

交番のスライド式のドアを開くと警察官がいた。

「これ、お、落ちてました。」

別に悪いことをしているわけではないが、なんとなく居心地が悪く息が詰まる感じがした僕は目の前の警察官に告げた。

「おお、それはもしかして藤沢さんが落としたポーチじゃないか。どうしたんだキミ。」

どうしたも何も名前を平気で言っているし、横柄な態度な警察官だな。僕は思った。

「朝、学校に行くときにあそこの石の上に置いてありました。それで帰りに届けようかと思って。」

僕は言った。

「そうだったのか、それで藤沢さんは気づいて探し回ったがなかったというわけか。君が持っていたんだな。はい、これを書いて。いや、まあいいや。」

何かの紙を渡そうとした警察は、そのポーチは藤沢さんのものであると断定して紙をまた棚の中にしまった。

「中身は取ってないんだろうな。」

厭らしい顔をしながら僕に言った。

「だ、大丈夫です。中も見ていません。」

こう言ったときに普通だったら少し、おかしいって言えるのだろうけど。

僕はポーチを警察に渡して家に帰った。

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