「――ヘリオス様。ほら、夜明けですよ。」

 戻ってきた。幻の薬草は本物だった。しかし、知らなくていいことまで知ってしまった。汗が一気に噴き出る。

 さっきのはきっと、オレの勘違いだ。

「ヘリオス様。どうなされました? 」

 相当苦しそうな顔でもしていたのか、ホルメーが心配そうな顔でのぞき込んでくる。

「なんでもないよ。」と答えると、「そっか。」とホルメーが笑う。

 笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。

「けははははははははははははははははははは。」

 寒気。

 白い世界、その中で何度も感じた寒気。父親に昔、向けられた笑顔から感じた寒気。最低の裁定。気付く。

 嗚呼、あれは全て現実だったんだなと。

 ホルメーは笑う。思い返せば首輪の力を破る方法を聞いたのはホルメーだった。思い返せば、夜明けに異常な憧れを抱き始めたのはホルメーと出会ってからだった。

 夜明けを見に来たのは、ホルメーがいたからだった。

「好きだったのにっ――」

 ヘリオスはその言葉を心の奥底からねじり出す。寒気。寒気。寒気。

 寒気が止まらない。だというのに、目の前で狂ったように笑う使用人から、ホルメーから目が離せないでいる。

 だけど、だから、

「人生最後に夜明けだけでも見せてください。」

 いつかの父と同じように、五体投地で、顔を涙にぬらし、頼み込む。父はこの頼み方で――。

「いやよ。夜明けはあなたの妻のもの。恨むのならば衝動、ただの衝動で悪魔との契約書に手を出した自分の父親を恨みなさいな。」

 ホルメーが空に手をかざすと黒い黒い塊が集まり集まりあたりを暗く染める。声一つ漏らせず、ヘリオスはただ消える。




 ドサリ、地面に落ちる音がする。ちょうどそれと同時ぐらいにオレンジの光が辺りを照らし始める。向こうからこちらへ、オレンジの光線が放たれる。

 落ちた者が気が付き、独り言のつもりでつぶやく。

「あれ? ここは? 」

「私は天使よ。あなたを生き返らせてあげたの。」

 返ってくると思っていなかった返事に驚く。

「そ、そうなんだ。ありがとう。」

「ほら見てみなさい。夜明けです。あなたを生き返らせたいと願った人の意向で、この時間に起こすことになったのよ。」

「誰だかわからないけど、よくわかってるわね。」

「そんなこと言って、本当は誰だかわかっているのでしょう? 」

「もちろん。本当、きれいな光景ね。ゴネアには感謝しないと。」

「あなたを生き返らせた人が、今も家で待っているはずです。早く行ってあげてはどうでしょう? 」

 天使は――笑って言った。

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後悔の夜明け 大水浅葱 @OOMIZUASAGI

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