第4話

それは粥というには、粘り過ぎた──。


 おかしい、どうしてこうなった。

ジャンボは、かゆのてっぺんにつきささったまま動かないスプーンを見て、呆然と立ち尽くしていた。

スプーンを動かしてみようとする。しかし粘り気が強すぎてほとんど動かない。

かき混ぜようなんてもってのほかだ。

のりだ。これは。こんなものをおかゆなんて言ったら、おかゆ協会から刺される。



「ジャンボ…できた?」



 台所で背中を向けてしばらく動かないジャンボに、バニラはそわそわと声を掛ける。

なんとかして振り向かないですむ方法はないかと考えた。

無理だ。正直に言うしかない……。


 ジャンボはスプーンが突き立てられた、おかゆ、もとい糊を手に持ってテーブルに置いた。



「……失敗した……」



 寝床の方に持っていくのも躊躇われるほど、それはおかゆではなかった。

けれど、バニラはよっぽど期待していたのか、寝床から歩いてきて、おかゆのようなものを見つめた。

チョコも寝床を抜け出し、着いてくる。



「……糊?」



 チョコが言った。ジャンボの闇がさらに深くなり、ジャンボは台所の隅で、背中を向けていた。

バニラはチョコにチョップし、おかゆのようなものを、とりあえず器にとりわけた。

スプーンで半分に切って、チョコにも差し出す。

チョコは首を横に振ったが、バニラは笑いながら無言の圧力をかける。


 その間もジャンボは台所のすみから動かない。

バニラは硬すぎるおかゆもどきを、スプーンですくい、口に運んだ。

味は普通の中華かゆだ。不味くはない。ただちょっといつまでも口の中に居座るだけで。


 チョコはまだおかゆもどきから距離を取ろうとしていたが、バニラがあまりにも怖いので、仕方なく口に運んだ。

そして死んだ目でもちゃもちゃと食べている。



「……大丈夫だって!うん、いけるいける!味はおいしい!」



 バニラは台所の隅の闇の塊に、元気よく声をかけた。

気がつくと、壁に頭をあずけて、ジャンボはなにかブツブツと言っている。

本当にヤバいやつだ。バニラはチョコを監視しつつ、おかゆと呼ばれていいのか分からないものを食べる。



「この粘りもさぁ、逆にこぼれにくいっていうか!?食べやすいっていうか!?いいと思うよ斬新で!ジャンボも食べようよ、ねっ!!!」



 バニラの気丈な声を聞けば聞くほどジャンボの闇は深くなる。「やっぱり俺が親なんて……」とか、不穏な声が聞こえてくる。

もう、本当に、ジャンボはめんどくさい。チョコもめんどくさい。

バニラは突然「あー!」と叫んだ。


 流石に驚いた二人はバニラを見る。



「いいじゃん!!第一回だもん!失敗だって!俺嬉しいし!なんだよ!二人が食べないなら俺が全部くってやる!!!」




 いつものバニラだったらこんなヤケクソにはならない。

やはり体調はまだ悪いのだろう。

酷く重たいおかゆをもどきを、バニラはかっこんでもぐもぐと大きく口を動かした。

ジャンボはとチョコは慌ててバニラを止めようとする。



「や、やめろ!吐き出せ!絶対死ぬぞ!喉に詰まるって!」

「バニラぁああ!」



 しかし、バニラはかなり無理をして飲みこみ、またおかゆでは無いなにかを、口にかっこむ。



「俺が悪かったから!な?バニラ、落ち着け?なぁ、また作るから!今度はちゃんと食えるやつ作るから!」

「あぁあ!バニラぁあ!」



 しかし、バニラは全て無視して、自分の器の分を全て飲み込んだ。



「美味しかったよ」



 有無を言わさぬ声に、ジャンボはうろたえ、小さく「ごめん」と言った。

チョコもバニラの威勢に怯えている。



「また、作ってね。絶対」



 バニラはジャンボに言った。ジャンボは「はい…」と答えた。

そして、バニラはテーブルを離れて、寝台へと戻る。

その後ろ姿を二人で目で追っていたのだが、バニラはばったり布団の上に倒れて動かなくなった。



「ああああああああぁぁぁ!!バニラが死んだ!!」

「やめろ!縁起でもない!バニラ、無理せず吐いちゃえ!?な!?」



 バニラは頑なに吐こうとせず、布団の上で倒れていた。

でも、本当に、本当に嬉しかったのだ。

その気持ちをジャンボが理解するまで、顔を上げてなんてやらない。

チョコは論外だ。あとでボコす。

そんなことを思いながらバニラは倒れていた。


 二人には見えないように、少し笑っていた。



終わり

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バイオレンスおかゆ(夜光虫シリーズ) レント @rentoon

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