記者会見

 記者会見は田村〈ゲルルス〉とメイ・フィブリル同席で行われた。まるで結婚記者会見みたいだと少し浮かれてしまった。


「わたくしはアウグスト星という惑星から来ました」


 透き通り響く声でメイが話し始めた。


 平和を愛する種族であること。惑星内での争いをやめてすべての力を科学の発展のために注いだため急速に宇宙へと進出することになったこと。地球との科学力の差は歴然としていおり、武力をもって制圧するのはわけはないが、そのようなことに興味はないこと。時折笑みを浮かべてメイが説明していった。記者の8割は男性で、その半分くらいはメイに魅了されているようだ。ちゃんと聞けよ。


「アウグスト星人の居住地は、鳥取と島根の山陰地方とします。山陰宇宙人特区として、今後、日本国への居住を希望する地球外知的生命体はすべてそちらへと案内します」


 記者たちから次々と質問が飛んでくる。


「日本を選ばれ理由を教えてください」


 メイ・フィブリルがほほ笑みながら答えた。


「故郷のアウグスト星と似ていて、四季の移り変わりがとても美しいところだと聞いています。国民の皆様も洗練されていて、公共心に富んだ方々ですので、住むのであれば日本と決めていました」


 褒めるのはただなのでどれだけでも褒めることができる。


「今後宇宙人――アウグスト星からは何名くらい移住してくる予定なのでしょうか」


 ほほに手を添え、首をかしげながら答える。


「まず、距離がとても遠いですからね。それに、本星ですでに職に就いている方はなかなか移住は難しいかしら。募集をしても一度に来るのは数人程度かもしれませんわね」


 記者会見会場に安堵のため息がこぼれた。


「あら、皆様、ハリウッド映画のように宇宙人が大挙して押し寄せる光景を想像していらっしゃったのかしら?」


 ふふ、と笑いながら答えた。


「結婚はしていらっしゃるのでしょうか」


 そんなワイドショーの芸能ネタみたいな質問もでた。


「それは秘密ですわ。ちなみに、年齢も秘密ですわ」


 ちらっと田村〈ゲルルス〉の方を見ながら言う。


 質問した記者は突っ込みが甘いんじゃないか。記者としてどうなのかと少し苛々した。


「ごく普通の生活をしたいだけですの。よろしくお願いしますわ」


 テレビカメラに向かって微笑みながら伝えた。



 メイ・フィブリルが山陰に定住するということは、田村〈ゲルルス〉とはしばしの別れである。


「そんな、この世の終わりみたいな顔をしないでください。用があればすぐに会えますわ」


 田村〈ゲルルス〉は一緒についていきかねない雰囲気であった。


「ネクタイが曲がってますよわ」


 メイが田村〈ゲルルス〉のネクタイを直してあげる。


「殿下がこれからも総理大臣として、アウグストの使命を無事果たされるよう祈っていますわ」


 仁科〈ターナ〉がつまらなさそうな顔をして黙ってみていると、突然メイが駆け寄ってきて話しかけた。マスクを着けて、イヤホンもつけて誰にも聞かせない。急に仁科〈ターナ〉が驚き、喜び、しきりにうなずいているのが見えた。2分ほどの時間だったが、長く感じた。


「二人で何を話してたんだ?」


「ガールズトークですわ」


 深く聞くと怖そうなのでやめておいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空想政治小説~半泣き宇宙人が理想の植民星を求める話。 渡辺 とも @tomo24

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ