四月朔日、宇宙人の受け入れ発表

 日本国の宇宙人受け入れ。そのための準備はすべてそろった。あとはどの時機にそれを公開するかだ。どの程度まで明らかにするのか、つまり、政府の要人がアウグスト星人と入れ替わっていることを説明するかどうかだが、入れ替わった経緯をうまく説明できないため、もうしばらくこのままにしておこう。


「母船に捕えてある本当の田村、仁科、等々力には、説明をしましたわ」


 メイの方が上司である感じがしてきた。説明の内容が気になる。


「アウグスト星人は、侵略主義の宇宙人を駆除するために宇宙のあちこちを旅をしているのです。無事、排除できました。彼らは、我々とは違った生命構造をしていたため、この地球で生きていくためには、最終的にはすべての生命を根絶やしにして、新しく生態系を作り直す必要があったでしょう。それはとても恐ろしい企てです」


 ここまで嘘をつけるのは才能としか言いようがない。メイは政治の中で、水の中を魚が泳ぐように生きてきたのだ。


「三人の大臣の不祥事も伝えておきました。収束させるために苦労したことを伝えましたところ、ひどく恐縮しておりましたわ。派閥ごとの勢力があるから人事は難しいんだと言い訳をおっしゃってましたわ」


 これで懸案事項がなくなったわけではない。


「田村達本人を地上に戻すとしたら、我々はどうなるのだ。居場所はなくなるし、排斥されてしまうのではないか」


「ご心配なく。アウグスト星人受け入れは田村達に納得していただいていますわ。ただ単に受け入れるのでは日本国も大変でしょうし、われわれも大変ですので、宇宙人受け入れ特区を作っていただくことにしました。島根県と鳥取県の地域ですので、島取宇宙特区という名前も考えてみました」


 名づけとかセンスが必要なことはメイは苦手なのかもしれない。


「島取、という名前は現地日本人の逆鱗に触れるかもしれないから、やめようか。山陰宇宙特区というのはどうだろう」


「名前にこだわりはありませんわ」


 まずは宇宙人を受け入れることを発表する必要がある。発表日時は後世に残るものにしたい。江戸時代、八月一日(八朔)は重要な祝日であったらしい。徳川家康が江戸入府をした日であるからだ。


 緊急記者会見は午前7時ちょうどから始まった。テレビ局各社の朝のニュースの時間帯である。


「日本国政府は、宇宙人から接触をうけました。相手方の姿勢は友好的です。日本語を理解しており、意思の疎通は可能です。宇宙人の要求は、日本国への定住です。日本国の法令は順守するとの言葉を受け取っています。繰り返します、日本国政府は、宇宙人からの接触を受けました。侵略などの意図はなく、友好的な態度です。要求としては…」


 海外各国のメディアは驚きもせず伝えた。


「エイプリルフールに日本国総理大臣が発表。宇宙人が来た!」


 諸外国での報道を見て、国内でも「エイプリルフールか」という気が緩んだ雰囲気になった。


 日本の新年度、四月朔日に発表して何が悪い。俺は悪くない。



「良い悪いの問題ではないのですよ」


 メイが優しく声をかけてくれる。その優しさが逆に心に棘のように刺さる。


「ターナやジャンは何をしていたのかしら」


「ふたりで、新聞社各社の懐柔をしてました」


 どうしてこんなことになってしまったのか。


「しかたありませんわ。本星から移民を呼び寄せるのは時間がかかりますし、わたくしが宇宙人として記者会見に出席いたします。ずっと隠れて生活するのも飽きてきましたし、ちょうどよいですわね」



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