第3話「尻、けつ、ケツドーン殺人事件 中」

 ふむ……、確か俺はメールで教えてもらった通り、右奥の一番後ろである座席を購入した。上映会場である、8番ルームに入り、右奥の座席へ向かった。


 「在君~こっちだよぉ」


 俺の購入した座席は、右奥の一番後ろ。うむ、間違っていない。スマホに届いているメールも再度確認するが、一番後ろと通知が来ている。なのだが、神鳴とお義母さんが座っているのは、俺が購入した座席の前列。


 「いや、なんでだよ」


 ひとこと言わせてほしい。一番後ろじゃねーじゃん!? え? なんなの? 一番後ろの右奥なんだよね? 君たちが座っているの、それ一番後ろから一列前じゃん。バカなの?


 しかも、俺が購入した座席なんだけど真ん中が空席だったのね? 俺の視力がおかしくなければ、俺の左右に座ってる知らないおっさんに挟まれるんだけど。さらに言えば、ひとりビール飲んでるからね!


「……他の人に迷惑よ、早く座りなさい」


 うるせぇ~よ! 俺としてはお義母さんがいることが迷惑なんだよ。人のデートにまで勝手に参加して……いや、俺の彼女が呼んでましたね。


 どうするのコレ。おっさんに挟まれて映画観るの? まてまて、チケットは買っている。なら、神鳴の隣の空席が、他の人に購入されていれば……。


 ――バレないんじゃね?


「まっいいか! もし来たら、間違えたとでも言えば」


 本来購入した座先ではなく、前列の神鳴が座る隣に座る。構図としては、神鳴、お義母さん、俺と言う配置になる。個人的には、すぐ隣が下へ降りる通路になっているのは嫌なのだが、贅沢は言えない。


「ねぇねぇ」

「どした?」


「ポップコーンちょーだい」

「……自分の食べろよ」


「もうない」

「ちょっ、まだ本編始まってすらいないんだけど」


「ふふふ」

「いいけど、俺のポップコーンも少なくなっちまったから、少しね」


「えぇ~半分ちょうだいよ」

「いやだよ!」


「近藤君? 少し食べたからって、ケチなこと言わないの。半分くらいあげなさい」


 貴様が尻ふり歩行したせいで、俺のポップコーンが減ってんだよ。まだ一口も食べてないからね? それなのに、さらに半分奪うつもり!


 ケチとか言うなら、お義母さんが愛娘にあげなさいよ。


「お義母さんが、半分あげたらいいんじゃないですかね?」

「どうして私の分をあげないといけないの? 近藤君さぁ、彼氏だよね? なら彼女に分けてあげるべきだよね?」


 このやろぉ~、最初の言葉だけでいったら、どうして俺の分をあげないといけないの? ってなるよね! それを言わせないように、彼氏って立場を利用しやがって。


しかも、神鳴の隣に座ってるのお義母さんですよね? お義母さんが自分のあげればいいのに……と再度思いながらも、面倒なことになっても嫌なのでお口をチャック。



「はぁ~、半分だけだよ。」

「在君ありがとぉ~すきー」

「はいはい」


 さて、俺のポップコーンを半分ほど神鳴の箱に移していく。


「近藤君。私を挟んでイチャイチャしないでくれる? 」


 もう嫌! このお義母さん嫌いよ。いきなり耳元で囁かれて、俺にどうしろと? 恋人同士なのだから、このくらいいいよね!?


「あっはい……」


 まぁいいさ、コーヒーを飲みながら映画を観れるだけでも幸せなんだ。


「あ……コーヒーも減ってんだった」


 ポップコーンとコーヒーも奪われ、俺は座席にもたれて一息つく。映画を観る前に疲れつつも、本編が始まる前に、コーヒーだけでも買ってこようかと考えていた。


 しかし、誰のいたずらか不明だが、本編が始まってしまう。劇場内の照明が消え、正面スクリーンだけが室内を照らす。俺は、左手でポップコーンを食べながら神鳴を見た。


 お義母さんを挟んで、俺のポップコーンを食べている神鳴が幸せそうにしていた。うんうん、人のポップコーンはそんなに美味しいかい?


「ママ、ちょっとトイレいくわね」

「うん、わかった。ママ、気を付けてね」


 隣に座るお義母さんが立ち上がると、カニさん歩きのように狭い幅を通ってくる。俺は通りやすいように体を引くが、固定されている椅子に座っていては、たいして幅を広げられない。


「ちょっ! んんぅぅうん!」

 

 ちょっとお義母さん! やめてっ、塞がってるっ塞がってる!

 俺の前を通ろうとしたお義母さんだが、ドーンとでちゃってるお尻が俺の鼻と口を塞ぐ。


 無理無理無理! 早くどいてくれませんかお義母さん。息が……呼吸できませんから、早くそのデカい尻を移動させて!


「あら、動かないわ。近藤君、ちょっと邪魔しないでくれる?」

「んんぅぅうぬぅう!」


 俺のせいじゃねーよ、無理に動かないで! そのお尻がガンガン俺の頭を座席に押し付けらえれて、マジで苦しいからね? ちょっとだけでいいの、自分の席に戻って……お願い。そうしたら、俺が一度席から離れますから!


「ブゥ」


 おいっっっ! こいつ俺の顔面にケツ押し付けておいて、おならしたよね! くっさ!


 ほんと勘弁してください、おぇぇぇ。吐く、このままだと吐いちゃうから! 早くどいてくれ! そのでちゃってるお腹に力を込めてへっこませようね。


「ママ? 一回戻って、在君に席からどいてもらったら?」

「そうね」


「すぅぅぅ。はぁぁぁぁ。死ぬかと思った」


 深呼吸をした俺は、席から離れてお義母さんに道を譲った。


「――ったく、迷惑ね」 


 このやろぉ……座ってただけじゃねーか! むしろ俺の方が迷惑だっつうの! 人の顔面にケツを押し付けやがって、デカすぎるから俺の顔全部、ケツで塞がっちまったじゃねーかよ。窒息と合わせて、くっさいポテトチップスの臭いを俺の鼻と口に置き土産していきやがって。 



「ん?」



 不意に、頬をつんつんされて神鳴を見る。ひとつポップコーンを指先に持って突き出してくる神鳴が、口を開けて?っと言うジェスチャーをする。


 あぁ、なんかいいな。


「おいし?」

「うまい」


「えへへ、神鳴ちゃんポップコーンだからね。美味しくて当然にゃ」

「……それ俺のだけどな」

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俺は彼女のお義母さんに殺される。 suzudeer @suzudeer

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