第2話 「尻、けつ、ケツドーン殺人事件 上」

 ふ、なぜこんな状況になっているのか説明を求めたい。


 最速の二日目になった、休日に突入した俺は、恋人とのデートを楽しむはず……であった。


 最新作の映画を堪能すべく、最寄り駅から二つ隣の場所にある映画館に向かったのだ。ウキウキの彼女はいつもの服装ではなく、おしゃれをしている。しかし、しかしだ……映画館の前に到着してすぐ。


「遅かったわね」

「あっママ。おまたせぇ~」

「ふ……嫌な予感」

「何か言いました近藤君?」

「いえいえ、どうしてお義母さんがコチラに?」

「ママに映画観に行くこと話したら、偶然にも観たい映画一緒だったみたいだから」


 この母娘は常識がない……のかな? わざわざデートを親に報告して、そのデートに参加する母親。

 うん、俺には理解できない。


 まぁ、付き合った当初から――そうなんだけど。お義母さんに、殺されるループ経験することになった俺としては、できるだけお義母さんと会いたくないのだけど。


「……もしかして、ママのこと嫌なの……」

「……」


 ――That's right。……失敬。お義母さんが目の前にいるのに、ド直球で嫌いなの? って聞ける君の海馬かいばを覗き込んでみたいね。しかもね、笑顔だったお義母さんの表情が、憑き物が落ちたように無表情になってしまったよ。


「はははは、カワイイお姫様に囲まれて映画館で過ごせるから、緊張しているだけだよ」


「なんだぁ~お姫様だなんて。神鳴姫ちゃんですっ」


「……君と隣には座らないよ。……気持ち悪い」


 いや、俺もお義母さんの隣で座りたくありませんけどね! そのまま永久永眠させられそうで怖いですから。


「ほら、早くチケット買いに行こう」

「だな」


 神鳴が手をギュっと握ってくる。それは温かくて、ふわふわな感触なんだろうね。俺の手じゃなくて、母親の手を握った彼女を見て想像だけで楽しんだ。


「くくくっ」

 

 ……母娘だなぁ、お尻でかい。おっと、俺は映画を楽しみに来たのであって、手を繋いでいる彼女とお義母さんのお尻をみたいわけじゃい。ふむ……笑ってはいけない。笑ってはいけないのだが、目の前でされると――あはははは、笑うだろ。んふん、落ち着け――俺。


 チケット購入のパネル操作をしている神鳴に近づき、横から画面を覗き込んだ。上映時間は、いまから10分後。飲み物とポップコーンを買っても時間が余るだろう。


「近藤君。時間がもったいないから、飲み物とか買ってきてくれる?」

「あっそうですね。神鳴は、カルピスだよな。お義母さんは、何がいいですか?」

「そうねぇ、同じカルピスでいいわ」

「わかりました」


 ふふ、どうやら映画のチケットは購入してくれるらしい。良いお義母さんの時もあるじゃないか。


 チケット、飲み物含めて、俺が全部払うつもりだったし、ちょっと得した気分だ。いや、お義母さんがいる時点でデメッリトしかないんだけど。


 まぁ、必ず殺されるわけじゃない。今日は、タダで映画も観れて最高の休日じゃないか!


「次の方~、こちらのレジにどうぞ」

「あっはい。えぇっと、カルピスLサイズを二つ。あと、ホットコーヒーMサイズ一つ……それぞれセットで」

「はい。ポップコーン味はどうなさいますか?」

「あぁ、聞くの忘れたなぁ。まぁいいか……。ぜんぶ塩で」

「はい。合計2610円になります」


 俺は財布から、ピッカピッカの1万円を出した。どうだ、新券マニアの俺のお札は!


「1万円お預かりいたしますぅ~」

「……まっそうだよな」

「はい?」


 おっと不審がられてしまった。まぁ、所詮1万円。綺麗でも汚くても、興味ない人からしたら一緒。


 俺はトレーを二つ受け取ったあと、ラブラブ母娘を探す。すぐ後ろにある、グッズ販売コーナーでパンフレットを買っていた。出入り口が狭く、いつもぎゅうぎゅう詰状態で選んでいる人たちを見ると、すごいなぁ~と感心する。


 俺はトレーを持っているので、二人が出てくるの待った。


「おまたせぇ~。買ってきてくれて、ありがとねっ」

「二人用トレイに入れて貰っちゃっているけど、いいよね?」


「在君ありがとぉ~、大丈夫だよ。えへへ、パンフレット買ってもらっちゃった」

「よかったねぇ」


 神鳴にトレイを渡す。片手にパンフ、片手に飲み物とポップコーンのトレイ。両手がふさがって困惑していたが、犬のように口でポップコーンを食べていた。身も心も犬になりたいようだ。


「さ、近藤君も来たし中に入りましょうか」


 ぬっふ!


「あっ……おれの」


 グッズ購買コーナーの出入り口は狭い。俺は出入り口に立っているのでしかたないが、無理やり横を通ってきたお義母さんの、ぷりっぷりのお尻が腰にあたる。盛られたポップコーンの凸部分のトツが消えた……。


ん? 熱っつっあぁぁl!


「あっ熱っぁぁ!ってお前もかよっ!」


 まったく同じ現象を立て続けに彼女にもやられ、俺の右手に熱々ホットコーヒーが襲う。


 なに? なんなのこの子。さっき君のお義母さんが俺にしたこと見てたよね? しかも、神鳴の方が俺に対しての被害大きんだけど。


「ふふふ、なにやってるのぉ? バカみたい」

「お前らのせいだよ!」


 ったく、他の人よりお尻でかいんだから、尻ふり歩行したら迷惑だろうが。被害が俺だったからよかったものの、小さい子とかだったら死んでたぞ。……お尻大きい人って、なんで尻を横に振りながら歩いてるんだろう。


「一人でなに笑ってるの? 気持ち悪いよ」

「え? あっなんでもないよ!」


 俺達は、劇場スタッフの前に向う。少しだけ列ができており、チケットを確認しているようだ。


「そういえば、俺のチケット貰ってもいい?」

「神鳴しらなぁ~い」

「……ん?」

「……」


 知らないと言いながら、ポップコーンを食べる彼女。無言で娘を見つめているお義母さん。あれ、これもしかしてだけど――俺のチケット買ってないんじゃね?


「……まさかですけど、俺のチケット買ってなかったり」


 お義母さんに問いた。


「なぜ、近藤君の映画のチケットを私が買うの?」

「……ですよねぇ~。買ってきまーす」

「えぇぇぇ、在君、まだチケット買ってなかったの! 遅いっ」


 貴様ぁぁ。チケット購入時から、俺の行動を知っているよね? あの流れなら、俺のチケット分購入してくれてもおかしくないよな?


 はぁ、神鳴は自分のこと以外は興味なし。お義母さんは娘のこと以外、悪魔とでも思っているのかもしれない。


 しかたない、並んでいた列を離れて、俺はチケットを購入しに向かった。ひとりで、そう一人で。当然、彼女達が購入した座席の位置は不明。彼女とのデート休日だったはずなのだが、なんで一人で映画観ようとしてるわけ?


 

「おっ? ……ふふ」


 神鳴からメッセージが届くと、自分たちが座っている座席位置を教えてくれた。


「在君~、右奥の一番後ろに座ってるねぇ」


 チケット購入画面のタッチパネルを操作して、座席指定画面まで移動する。平日とは言え、そこそこ人数がいるらしい。ほとんどの座席が埋まっていた。


「……真ん中かよ」


 教えてもらった座席一覧を見つけると、横に三つ座席がある配置の場所。しかし、購入されているチケットは真ん中が空席。つまり、お義母さん、俺、神鳴と言う構図で座ることになるのでは。


「お義母さん……隣に座るのは嫌だったんじゃないのかよ」


 まぁ、もしかしたら座席購入では真ん中が空席だけど、どうせ二人隣同士で座っているだろう。


 ――そんなことを考えてた時間もありました。





 

 

 

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