王都編 ある日の彼ら

第4話 ある日の音取蒼夜

 音取蒼夜は、日本人の母と外国人のハーフの父との間に生まれたクウォーターである。

 顔立ちは日本人だが、褐色の肌に金髪は天然物だ。背も180近く、筋肉質な体なので見た目は完全に夏の海辺にいそうなヤバい人に見える。

 

 しかし見た目とは裏腹に真面目で勤勉、礼儀正しく内向的。決して友達の彼女を寝取るようなクズではない。


 魔獣の大群が押し寄せてきた日から1日が経った。

『英雄』レイスの活躍により、外来街への被害は0となり、人々は変わらぬ日常を再開していた。

 蒼夜はそんな中、街を歩きながら1人で休日を満喫していた。


 指輪によって、彼の姿は同じ指輪を持つ仲間以外には白肌に青髪そして緑色の眼をした好青年に写るようになっている。身長や体格は変えられないため顔立ちに変化はないが、これならあの補佐官も分からないだろう。


「新鮮な果物はいらんかねー」


 果物屋の店先で初老の男性が呼び込みをしていた。

 見ると確かに瑞々しい果物が並んでおり、蒼夜は思わず小銭入れを取り出しそうになった。

 だが、すんでのところで思いとどまり、果物屋から背を向けた。

 彼には目的の場所があったのだ。

 それは小さな食堂だった。

 

 普段蒼夜は明たちと冒険者がよく利用する大衆食堂で食事を済ませていた。そこは安く味もそこそこで何より量が多かった。

 然し、5日に1度の休みの昼、蒼夜は平民街にあるこの食堂に来ていた。

 目的は、そこで働く女性店員だ。

 

 年は蒼夜より1つ上で、親の経営する食堂を手伝っていた。

 器量がよく、明るい桃色の髪を1つにまとめ、笑顔を振りまきながら一生懸命に働く姿は低い身長と相まってとても可愛らしく客からの評判は良く、数多いい男性客の心を掴んでいた。

 

 そしてそれは、蒼夜も同じだった。

 初めて来たのは、王城を脱出し、冒険者登録を済ませた次の日の事だった。

 探し物の依頼で、詳しい話を聞こうと伺いに行ったら、依頼人が彼女だったのだ。

 

 探し物は結局、彼女の家の庭にあり恥ずかしそうに照れ笑いをするその仕草に蒼夜は心を奪われてしまった。

 そして、その時に彼女の両親が食堂を開いていることを教えられ、そのお店でお礼をしたいと言われ、以来そこに休みの日は通い続けていた。

 

 蒼夜は最初も言った通り見た目がちょっとアレなので、幼いころから他人に揶揄われることが多かった。そのため内向的になり、元の世界では積極的に人と関わり合いになろうとはしなくなっていた。

 

 異世界に転移して自分のような見た目の人間が普通にいる場所に来たおかげで、かなり心が開けていたが、それでも見た目のせいで深く傷つく原因となった女性には未だに苦手意識があった。そのため、店に通い続けてはいても、注文する以外で彼女に話しかけられずにいた。

 

 もっとも、蒼夜本人にとってみればそれで十分だった。女性との交際を意識的に避けてきた彼にはこの、時々見に来る程度の距離が丁度良かった。

 然し、今日は、そうも言っていられない事態になっていた。

 なんと彼女がナンパされていたのだ。それも普段はいない冒険者風情の男に。


「なあ、今度2人きりで会わねえか?」


 陳腐なセリフを吐きながら、男は下卑た笑みを浮かべ女性に詰め寄っていた。

 ドアを開いた時にこんなことになっており、蒼夜は慌てふためいた。

 

 蒼夜を含め、転移してきた仲間は全員リスクの低い依頼しかやっていないので戦闘経験が乏しい。ちなみに蒼夜の主力武器は双剣である。一応、村では準優勝している。ただ、それは陽ノ本 明と同じ理由からだったので今はあまり強くない。

───わけでもない。

 

 女性───ルミアさん───は、入ってきた蒼夜に助けを求めるように目くばせをしてきた。ちなみに他の客は縮こまって傍観していた。


 男のの腕は丸太のように太く、全体的ゴツい身体と傷の付いた顔からかなりの冒険者であることが伺える。とても蒼夜の叶う相手ではない。

 などと言っている状況ではないのだ。

 蒼夜は、走り出した。当然丸腰。

 男は腰にナイフを携えている。


「ああ?」


 胡乱げな目で男が蒼夜を睨む。それだけで逃げ出してしまいそうな衝動に駆られながら叫ぶ。


「そうじゃねえだろ!」


 言いながら蒼夜の振りかぶった拳が男の顎に幸運なことにクリーンヒットした。

 なにがそうじゃねえんだろう?

 その場にいる誰もが疑問に思う中、男は気絶して膝から崩れ落ちた。


「ありがとうございました。助けていただいて」


 ルミアさんが蒼夜に頭を下げた。


「あの人は一昨日来てからしつこく誘ってきていて、とても迷惑していたんです。本当に助かりました」

「い、いえ。あなたに危害が及ばなくて良かった」

 

 冒険者は暫くすると目を覚ましたが、蒼夜の顔を見るなり青褪め逃げ出していった。見掛け倒しの冒険者だったのかもしれない。


「お礼に、今日はご馳走します。なんでも食べてください」

「あ、ありがとうございます。じゃ、じゃあ………」

 

 これを機にルミアさんとの距離を縮めようとか思えないのが蒼夜の残念なところだと言える。


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異世界に転移したら(番外編) ヨートロー @naoki0119

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