ボクを殺さないで

やっと滴が止まったのを確認し、僕は彼を抱きしめる腕を解いた。

現れた彼の顔は、微かに笑みを湛えていた。


「もう、大丈夫か?」


ひとつ頷き、彼は言った。


「ボクを殺さないで」


そして、今まで見た事の無いような笑顔を見せると、そのまま消えた。

まるで、そこには誰もいなかったかのように。

そして消え去る瞬間に彼が身に着けていたものは。

真っ白なシャツに真っ白な半パン、真っ白なソックスだった。

玄関を確認したが、スニーカーも消えてなくなっていた。

けれどもおそらく、そのスニーカーも、真っ白なスニーカーだったに違いない。

僕はそう思った。



あれから数年。

僕は今、大好きな彼と一緒に暮らしている。

たとえどんなに傷つこうとも、周りから何を言われようとも、僕はもう絶対に、僕の中の『彼』を殺すことはしないと決めたから。

今でも彼女には申し訳ないという気持ちを持っている。

それでも、少し前に偶然すれ違った彼女の左手薬指に、輝く銀の指輪を見つけて、少しだけ僕の罪が赦された気がした。

どうか、彼女には幸せになって欲しい。

そして。

僕も負けずに、幸せになる。僕の中の『彼』を幸せにするためにも。

そう、心に決めた。


【終】

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コロサナイデ 平 遊 @taira_yuu

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