風神

音澤 煙管

わたしは嵐にも、そよ風にもなる。




わたしは風、

突如として君の前に現れる。


君が必要か否か、

それは関係の無い事だ。


疾風の様に現れそして消える、

何を意味するかわかるかな?


思ってもみないだろうな?

わたしの存在には意味があるんだ。


それはとても重要な事だ、

君の人生に関わることでもあるんだ。


君が昔、

親友を殴ったことがあるだろ?


その時もわたしは、

君の背中を見ていた。


その昔には、

君は彼女に嘘をついた時があるだろ?


あの時わたしは、

突風で君の頬を叩いたんだ。


覚えているかい?

君が生まれた時も側に居たんだ。


そればかりでは無い、

君が何もしていない時や。


ボンヤリして空を眺めている時、

其処にもわたしは居たんだ。


ずっと君と一緒だったんだ、

君が何を考えていたのかも。


全てお見通しだ、

何故だかわかるかい?

それはね……


君の心の風だからさ、

心の隙間風なんだ、昔はね?


今は違う、

君の心には隙間など全く無いからな。


今の君は、

空っぽの心だから……


30階建てビルの屋上に居る、

そう君の今は自身を終えようと。


飛び降りる寸前だ、

わたしの仲間も集まった。


高い所の仲間たちは、

気性が荒くてねぇ?


君が今迷って留まっている、

仲間たちは君の背中を押そうとする。


わたしは君の心の風だから、

何とか食い止めようとして居る。


もう30分ここに突っ立ってる君、

わたしも仲間たちも眺めている。


さぁ、どうするんだい?

もう仲間たちを食い止めるのには。


限界がきた様だ、

わたしは君の心に戻るよ。


あ、

一つ言い忘れた事がある

いいかい、

よく聴くんだ?


今日は、

君の親父の命日だ

それと、

昨日別れた彼女の誕生日だな。


それだけだ……

じゃあ元気でな?




その時突然、

風が止んだ…… 。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風神 音澤 煙管 @vrymtl

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ