日の本の挽歌
若葉色
日の本の挽歌
―タエガタキヲーッタエ、シノビガタキヲーッシノビ…
今終わったのか
ああ終わったのか
やっと終わったのか
ようやく終わったんだ
どうして今終わるんだ?
何を今更終わったなんて?
そんなの、そんなのおかしいじゃない
「すぐに帰るから」ってそう言ってたもの
おかしいじゃない
どうしてですか
どうして終戦前に特攻なんて
おかしいじゃない
どうしてですか
夫を返してください
お父さん言ってたよ
「お国のための素晴らしい仕事だ」って
だからおかしいもん
何で、どうして
どうして終戦前に空襲なんて
だからおかしいもん
何で、どうして
お父さんを返してよ
あの
「戦争が終われば一緒になれますね」って
これはおかしい
これはどうしてなのか
どうして終戦前に機銃掃射が
これはおかしい
これはどうしてなのか
あの娘を返せ
うちの息子が言っていた
「ご飯お腹いっぱい食べたいよ」って
ほんにおかしい
もう、どうして
どうして終戦前に衰弱死なぞ
ほんにおかしい
もう、どうして
息子を返して
母が言っていました
「こんな時だからこそ明るくいなくちゃ」って
おかしいです
どうしてなの
どうして終戦前に原爆なんて
おかしいです
どうしてなの
母を返してください
にぃにが言ってたの
「早く怖いことがなくなるといいね」って
おかしいよね
どうしてかな
どうして終戦前に自決したの
おかしいよね
どうしてかな
にぃにを返してよ
返して
返して
荒涼たる日の本に響く怨嗟の声
荒涼たる日の本に響く民の挽歌
なぜ今なのか
なぜ今なのか
もっと早く終わっていれば
すこし早く終わっていれば
一日も早く終わっていれば
死なずに済んだ
失わずに済んだ
焼け焦げた大地に
崩れ落ちた建物に
それでも草の芽が兆す
それでも日の光が射す
返して
返して
今も響く怨嗟の声
今も響く民の挽歌
けれどもそれすら変わりゆく
奪うな
繰り返すな
返せないのなら
決して奪うな
決して繰り返すな
何があっても
風に乗せて
あるいは蝶に託して
またあるいは波に浮かべて
誰かの耳に届けとばかりに
挽歌が響く
今日というこの日に
ほら、ね
聴こえますか
貴方の耳に届けとばかりに
響く挽歌は
日の本の挽歌 若葉色 @cosmes4221
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