仕事が珍しく早めに終わった男はふと大きな木に目をとめた。仕事続きの毎日に疲れた男は夕陽によって作られた木陰で休むのも悪くないと思ったのだ。

腰を下ろし、はぁとため息をついた男の耳に少女と少年の声が聞こえた。

少女が言った。

「沢山ご飯を作って貰えるし、沢山洋服だって買ってもらえるの。それに沢山のお友達もいて、毎日が幸せなの」

男は自分は何を持っているのだろうかと考えた。


少年が言った。

「ご飯を作るのも、洋服を作るのも凄く楽しいんだ。それに数人だけど、色んな話ができる友達がいて、毎日が幸せなんだ」

男は自分は何を作ることができるのだろうかと考えた。


男は知った。

何も持っていないことに。

男は知った。

何も作れないことに。

男は色んなものから目を逸らすかのようにその場を去った。

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少年と少女と男 @yozakuraede

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