最終話:一人じゃないから大丈夫
学年が上がって一学期が後半に差し掛かった頃。彼からこんな話をされた。
「静ちゃん、ノンセクシャルなのかもよ」
「ノンセクシャル……ですか?」
「うん。人に対して恋愛感情を抱くことはあるけど、性的な欲求はほとんど抱かない人のこと。らしいよ」
セクシャルマイノリティ——つまりLGBTの一種として、そういう言葉があるらしい。LGBTの4つはあくまでも、代表でしかなく、セクシャルマイノリティというのはもっと細かく分けられるのだと、彼は語った。
「だから、俺も君もそういう性質の人間なんだよ。多数派じゃないけど、少数派なだけで、決して間違いではないんだって。…って、友達が話してくれたんだ。……だからさ……気休めかもしれないけど……静ちゃんと同じように性的なことは無理だけど恋はしたいっていう人は、確かにこの地球のどこかに存在するんだ。だからその……静ちゃんは……セックスとかキスとかそういうことできないままでも大丈夫だよ。……うん。……ごめん。余計なこと言ったかな……」
彼は言葉を選ぶように、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。最低だとか、クズだとか、僕も最初は噂だけを聞いてそう思い込んでいた。苦手意識を持っていた。だけど、彼は本当は優しい人だ。最低な人間だったら、僕を傷付けないように言葉を選んだりしない。
「……いえ。……ありがとうございます。そうですか……僕はノンセクシャルなんですね…」
「ちょっと気持ち楽になった?」
「……はい。少しだけ。……僕と同じような人がいるということを知れたので」
「ちなみに、恋愛感情って誰もが持っているわけじゃないらしいんだ。俺はもしかしたら、恋という感情を経験することなく人生を終えるかも知れない」
「でも大丈夫」と彼は笑ってこう続ける。
「俺には居場所がある。あの日、みぃちゃんが作ってくれた居場所が。……例え誰とも結ばれなくとも、俺はきっと、孤独にはならない。……あ、静ちゃん、大人になったらルームシェアしない?」
「……絶対嫌です」
「えー!?なんでよー」
「……毎晩女性連れ込みそうなので」
「女性とは限らんよ?」
「どっちでも嫌です」
「大丈夫。寝室は別だから」
「嫌です」
「静ちゃぁん……」
自分のような人を表す言葉がある。それをしれただけで、少しだけ、少しだけではあるが気が楽になった。僕は、無理して普通にならなくても良いんだ。僕は僕のままでいいんだと、苦手だった人が教えてくれた。
僕を受け入れて愛してくれる人がこの先現れるかどうかはわからない。だけど、現れなくても大丈夫だ。例えこの先恋愛ができなくとも、僕を僕のままでいいと言ってくれた彼が——彼らが居る限りは僕は孤独にはならないのだから。
愛していても触れないで 三郎 @sabu_saburou
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