第4話:柚樹の悩み

 その年の文化祭で、僕たちは初めて全校生徒の前でオリジナルの曲を披露した。

 以降、僕は女子生徒から好きだと告白されることが増えた。しかし、中学生の頃に付き合っていた彼女の一件が忘れられず、恋愛に積極的になることは出来ずに、告白は片っ端から断っていた。

『西城さ、なんでモテるのに彼女作らないの?』

 そんな質問が増え、うんざりしていたある日、柚樹さんからこんな質問をされた。


「静ちゃんってさ、人に恋したことある?」


「恋はあります」


「へぇ。あるんだ。俺と同じかと思ってた」


「同じ?あなたと?冗談やめてくださいよ」


「ごめんごめん。……俺さ、人に恋したことないんだよね」


 珍しく真面目な声だった。仕方なく、僕は彼の話を聞いてあげることにした。


「マジで誰でも良いんだよ。この人じゃなきゃ駄目だって思ったことがないんだ。寂しさを紛らわせてくれる人なら誰でも良い。……誰でもいいから、そばにいて欲しいだけ。セックス中毒ってほどじゃないと思うけど……誰かと繋がってないと寂しくて仕方ないんだ。自分が普通じゃないのは理解してるつもり」


 いつもへらへらしている彼だが、その日は珍しく真剣な顔で悩みを打ち明けてくれた。その時ようやく、彼は彼なりに悩みを抱えて生きていることを知った。


「……僕は……」


 思い切って僕も彼に自分の悩みを打ち明けた。

 他者との性的な行為に抵抗がない彼と、抵抗がある僕。

 恋という感情が理解できない彼と、恋という感情が理解できる僕。

 僕らは正反対だけど、マイノリティだという共通点を見つけた。『足して二で割れたら丁度いいのにね』と、彼はおかしそうに、どこか寂しそうに笑った。


「…意外ですね。『一回ヤッてみたら意外と平気かもよ』とか言いそうなのに」


「えっ、俺そんなイメージ?心外だな……確かにけど、そんな酷い誘い方はしないよ。セクハラじゃん」


「……サラッと凄いこと言いましたね。今」


「俺も最初知らなかったんだけど、ネットで知り会ったお姉さんが、脱いだら生え「待ってください。聞きたくないです。やめてください」」


 慌てて止めると、ごめんごめんと苦笑いする彼。


「悪い。これ、セクハラだな」


「セクハラという言葉を理解しているのですか?」


「一応ね。次からは、静ちゃんの前ではそういう話しないように気をつける」


「……お願いしますね」


 相変わらず彼のことは苦手だ。だけど、彼のことを知るうちに、彼に対する嫌悪感は気付けばほとんど消えていった。

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