第3話:バンドやろうぜ
しかしある日、幼馴染で同級生の
「バンド?なんで急に?」
「この間友達のライブ行ってさー。いいなぁと思って」
「……きららさん、楽器出来ないじゃないですか」
「なんもできんけど、歌はそこそこ得意よ」
「……メンバーは?」
「とりあえずまだあたしと静ちゃんだけ」
「僕はまだやると言ってませんが……」
「いいじゃん!やろうよぉー。静ちゃんベース弾けるじゃん」
高校時代バンドをやっていた父から弾き方を教わり、ベースは弾ける。趣味でたまに弾いている。音楽は嫌いではない。仕方なく、メンバーが集まるならという条件で受け入れた。
「よっしゃ。ありがとー!ところで、バンドって何人必要なん?」
「二人でもできなくはないですが……バランスを取るなら最低でも五人ですかね」
「あと三人な。オッケー」
「……ドラム、ギター、キーボードができる人をお願いしますね?」
「任せろ」
どうせ集まらないだろうと思っていたが、翌日、彼女は二人の女子生徒を連れて来た。そのうち一人は実さんだった。もう一人は
「……わたし、ヴァイオリンしか弾けませんが」
「いいじゃん。ヴァイオリンがメインのバンド!」
「きららちゃんがボーカル、実ちゃんがヴァイオリン、で……西城くん……だっけ?君がベース……私がキーボードだとして……やっぱドラムはほしいよね……あ、ヴァイオリンでメロディ作って、キーボード抜いちゃう?」
「えっ、じゃあみぃちゃん何やんの?」
「ドラム」
「マジで?叩けるの?」
「ちょっとだけね。弟がドラムやってるから見よう見まねで。初心者だけど、それでもいいなら。あとはギターが欲しいよねー」
「あの、わたしやるって言ってないのだけど」
「「いいじゃん!やろうよー!」」
「……はぁ……」
着々と話が進み、もはや後戻り出来ないところまで来てしまったようだ。あと一人。来ないことを密かに願っていると——
「あれ、静ちゃん。女の子集めて何してんの?俺も混ぜてよ」
最悪のタイミングで柚樹さんが話しかけて来た。
「げっ……あんた……」
「きららちゃんの知り合い?」
「知り合いっつーか……みぃちゃん知らないの?」
「わたしの兄ですよ」
「実ちゃんのお兄さん?あぁ、なるほど、女癖が悪いことで有名な」
「大丈夫だよ。無差別に手出してるわけじゃないから。ちゃんとトラブルにならないように都合良く遊べる子を選んでるから」
「うっわ。最低」
「最低だけど、むしろ潔くて好感持てるね」
「あははー。ありがとー。好感持てるなんて言われたの初めて」
「静ちゃん、こいつと知り合いなん?」
柚樹さんに対して警戒心を剥き出しにする天宮さん。
「知り合いっつーか、俺と実は彼のご主人様」
「学校ではただの同級生ですよね?」
「そんな怖い顔すんなよ。冗談冗談」
「……静はうちで働いているんです」
「あぁ、なるほど……お手伝いさんってこと?」
「マジで?静ちゃん、あたし聞いてない」
「実さんに言うなと言われたので」
「えっ、あ、ごめん。内緒にしてた?」
ため息を吐き、苦笑いする柚樹さんを睨む実さん。
「このことはここだけの秘密ですよ。……柚樹も。勝手にバラさないで」
「隠してたの知らなかったからさ。悪い悪い。俺は別にバレてもいいけどね。てか実、俺のことは隠さなくていいわけ?」
「その件に関しては隠したってどうせ苗字でバレますから」
「まぁそうだよなぁ。で?何話してたの?」
「……バンドを組みたいと、この人が」
「バンド?へぇ……実もやんの?」
「いいえ」
「「えぇ!?やらないの!?」」
天宮さんと安藤さんの声が重なる。安藤さんはどうやらやる気満々なようだ。
「ふぅん……俺はちょっと興味あるけど」
「実ちゃんのお兄さん——柚樹くんは何か楽器できるの?」
「ヴァイオリンなら弾けるよ。といっても、実と違ってブランクがあるけどね」
確かに柚樹さんの部屋にはヴァイオリンがある。『俺は妹と違って才能は無いけど』と言って少しだけ弾いてくれたが、素人の心を揺さぶるには充分な音色だった。ちなみにその時弾いてくれた曲は彼が即興で作ったもの。即興で曲を作れるだけでも充分特別な才能だと思うが。
「ヴァイオリン二人かぁ……」
「……わたしはやるって言ってませんけど」
「柚樹くん、君、ギター弾いてみない?そしたら丁度いいと思う。きららちゃんがボーカル、私がドラム、西城くんがベース、実ちゃんがヴァイオリン、で、君がギター。ね。バランス良くない?」
「……安藤さん、話聞いてますか?」
自分を無視して話を進める安藤さんを睨む実さん。
「まぁまぁ、一回やってみようよ。私はやりたいよ。コンクールみたいに評価されない、優劣をつけられない、自分達だけの音楽を作るって、きっと楽しいよ」
「評価されない音楽か……」
「いいねそれ」と柚樹さんが笑う。安藤さんの一言で、一瞬にしてやる気になったようだ。
「つっても俺、ギターなんて弾いたことないけどいい?」
「私もドラム初心者なので、大丈夫です。きららちゃんはどう思う?」
「……一回合わせてみてから決める」
訝しげな視線を柚樹さんに向ける天宮さん。まだ警戒は解けないようだ。彼と初対面の女子生徒は大体こうだが、安藤さんは普通に接している。
「安藤ちゃんだっけ。君は俺のこと警戒しなくていいの?」
「無差別に手出してるわけじゃないんでしょ?」
「……ふぅん。簡単に信じるんだ」
「君はなんとなく、私の従姉妹に似ている気がするんだ。悪い人には見えないよ。こう見えても私、人を見る目は確かだよ。さて、あとは実ちゃんだね。君はどうする?」
もはや、やりたくないとは言えない雰囲気だった。
「……仮参加でいいなら」
そんなわけで、天宮さん、安藤さん、柚樹さん、実さん、僕の五人でバンドを組むことになった。最初は後戻り出来なくなってしまったなとため息をついていたが、一度合わせてみると案外楽しかった。乗り気ではなかった実さんも、演奏が終わった後は気が変わったらしく、バンドに入ることを決めた。
バンド名はクロッカス。天宮さんの『青春っぽい感じが良い』というリクエストから"青春の喜び"という花言葉のある花の名前を取った。
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