第2話:遊び人

 高校に進学してしばらくして、僕はアルバイトを始めた。個人宅での使用人のアルバイト。有名な化粧品会社の社長の家らしい。

 そこの次男が、偶然にもクラスメイトだった。彼には双子の妹がおり、その妹も同じ学校に通っているらしい。


「あれ?君……えっと……くんだっけ?」


西城さいじょうです。じゃなくて、西です」


「あぁ、西だったか。ごめんね。あ、でも下の名前は覚えてるよ。女の子みたいな可愛い名前だったよね。えっと……」


「覚えてないじゃないですか。せいですよ。で、西城さいじょうせいです」


「あぁ、そうだ。静ちゃんだ。俺は一条いちじょう柚樹ゆずき、こっちの無愛想なのは妹のみのり。これからよろしくね」


 二人——特に柚樹さんは有名人だった。大手企業の子息令嬢というのもあるが、それ以上に、悪い意味で有名だった。女癖が悪いらしい。人が良さそうに見えるが、女性を取っ替え引っ替えしているとかなんとか。そんな噂を彼も妹も否定しなかった。


「柚樹ぃ、女紹介してくれない?」


「えぇ?めんどくさぁ…」


「そう言わずにさぁ…」


 などという下品な会話を白昼堂々繰り広げる彼と同級生の男子を心底軽蔑していたが、バイトは簡単にはやめられなかった。時給が良かったし、職場環境も良かったし、職場で柚樹さんと会うことはほとんどなかったから。

というのも、彼はほとんど家に居なかった。家族からは嫌われているらしく、彼の話は職場では禁句だった。たまに帰ってきても彼の「ただいま」という声に返事をする人はごく一部だった。職場環境が良いといったが、彼がいなければという条件付きだ。彼がいるとなんとなく空気が悪くなる。

 しかし、妹の実さんは彼のことを悪くは言わなかった。実さんとはそれほど仲が悪いわけではないらしい。少々複雑な家庭のようだが、使用人の分際で口を挟むことはできない。柚樹さんと実さんとも、職場では主従関係だが、学校ではただの同級生で、クラスメイトの柚樹さんはともかく実さんとはほとんど関わることはなかった。

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