愛していても触れないで

三郎

第1話:そんなのは恋じゃない

 自分が人と違うと気付いたのは、付き合って一年になる恋人に『いつになったらキスしてくれるの?』と言われた時だった。


「えっ。えっと…」


 僕は彼女が好きだった。一瞬にいるとドキドキするし、彼女が異性と話しているともやもやしてしまうし、彼女に好きだと言われて嬉しかった。だから付き合った。

 だけど、キスをしたいという感情は一切無かった。そもそも、キスやそれ以上の行為に興味はなかった。彼女と一緒に居られるだけで、手を繋いだり、抱きあって笑い合えるだけで、充分幸せだった。

 しかし、ある日のこと……


「…ねぇせい、私のこと好き?」


「好きだよ」


「なら、キスして」


「えっ。いや……そういうのは……僕は……」


「えっ……したくないの?」


「……君はしたいの?」


「そりゃしたいよ……好きだったら普通、したいって思うでしょ。せいは私のこと、好きじゃないの?」


「そんなこと……」


「なら、キスしてよ」


 泣きだしてしまった彼女の唇に、恐る恐る唇を重ねた。初めてのキスで抱いた感情は嫌悪感だけだった。そんな気持ち悪い行為で恍惚とした表情をする彼女に対しても嫌悪感を抱いてしまい「もう一回」と言われて反射的に「無理です」と返してしまうほどに。

だけど、悲しそうな顔をする彼女を見ると辛くて、嫌悪感を抑えてもう一度だけ唇を重ねた。

 離れると彼女は幸せそうに笑う。だけど僕は幸せな気分にはなれなかった。二度としたくない。だけど、彼女はまたしたがるのだろうと思うと憂鬱な気分になった。

 それ以来、彼女のキスの誘いをことごとく断っていると、中学を卒業する頃に再び「私のこと好きじゃないんでしょ」と泣きながら問われる。正直に、キスという行為が苦手だと話したが理解して貰えずに、彼女とはそこで別れた。彼女のことは本気で好きだった。彼女と仲のいい男子に嫉妬するほどには。

だけど、周りは口を揃えて言った。「お前のそれは恋じゃない。ただの独占欲だ」と。

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