真夜中に蝉が鳴く

@yunomi09

照明がついたままの部屋で目が覚めた。

枕元に転がっているスマートフォンは電池切れになっていて、またネットサーフィンをしながら寝落ちしたのだろう。


昨日から降り出した雨は随分と穏やかになったようだが、まだこの街を濡らすことをやめないらしい。

あと2時間もすれば家を出て仕事に行かなければならない。

ぼんやりとした頭で考えるのは仕事のことばかり。昨日も上司のお小言をもらったがそれほど私が悪かったのだろうか?

シャワーを浴びたら今日が始まってしまう気がして、まだ夜よ明けないでくれと縋るように薄い掛け布団を口元まで引き寄せる。

どこで間違えたのだろう、眠れない時は決まってそんなことを考えてしまう。

中学受験をしたことも、県内で3本の指に入る高校に通ったことも、大学で経済学を専攻したことも、全て自分の人生が豊かになるためだったはず。

会社が用意した部屋と自分のデスクを往復するばかりの日常がわたしの求めた豊かさだったのだろうか。


気がつくと雨の音は騒々しく鳴く虫の声に変わっていた。

眠るのを諦めて窓を開けると晩夏の太陽はまだ東の空さえも焼いていない。

小さな空に吸い込まれていく声と聴きながら洗濯機の電源を入れて、今日のコーヒーは苦めが良いなと思った。

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