こうして誰もが彼の人を忘れる
白川津 中々
■
弱者は邪魔だから死んでほしいと誰かが言った。
なんとも悲しい気持ちになったが、考えてみれば俺も誰かに対して死んでほしいと願った事がある。それを棚上げして「酷い言葉を吐くね」だなんて批判はできない。怯み、反論するを臆する。
けれどこの胸のもやもやは晴れない。正義感とか偽善とか、そんなものじゃない、納得できない気持ちが、確かに芽生えている。これはなんだろうか。いったいどういう感情なのかとしばし考えると、あ。っと納得する答えが出た。殺意だった。俺は彼の人について、死んでほしいと、殺したいと思っているのだった。強い言葉で弱者を叩き、子供みたいな言い訳を繰り返して自身を正当化する彼の人を、殺したいのだ。
そう思い至ると靄が晴れた。綺麗事じゃないんだ。偽善じゃないんだ。ただ馬鹿な事を言った愚者に対して死んでほしいだけなんだ。あの人が弱者に対して向けた殺意と、同じものを俺は抱いたのだ。俺にとってあれは臭くて不愉快でろくでもない存在に違いなく、今すぐ消えてほしい存在なのだ。
だが、そんな風に思っても彼は死なない。途端に殺意が虚しくなる。止めよう。考えるのは。不快な存在について頭を悩ます必要はない。俺はただ、俺の生活について考えるだけでいい。取るに足らない事象に頭を使うは、実に、無益だ。
こうして誰もが彼の人を忘れる 白川津 中々 @taka1212384
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