母国への帰還 ※ロジー視点
※?突然の解雇 ※ロジー視点 の続きです。
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オグランのお屋敷から追い出されて4日後。
私はガーレット国とアレンシア王国の間の国境を越え、母国であるアレンシア王国の地に戻って来ていました。
「こちらの国へ来るのは5年振りですか。それに実家ともなると20年近く戻っていませんでしたね。受け入れてもらえるか不安です」
不安ではあるものの、他に受け入れてもらえるような場所に親戚の屋敷を除いて心当たりはありません。辛うじてグレシア辺境伯様のところなら話を付けられる可能性はありますが、それは実家どころか親戚の方々に受け入れられる可能性よりも低いでしょう。
最初は親戚の家へ、と考えていたのですがやはり実家へ戻った方が良いと判断し、今は実家の近くまで運行している乗合馬車に乗っています。
乗合馬車の窓から見える光景は昔とそう大きくは変わりませんね。何だか懐かしい気分になります。
そんなことを思っている間にも、乗合馬車は舗装のされていない街道を進んで行きます。
私の実家は小さな領地を持つ子爵家です。
私が使用人になった経緯はそれほど複雑な物ではありません。単に子爵位の継承権が無い3女。上から数えて5番目の子供だったため家を出ることが確定していたことに加え、他家からの婚姻の申し込みが無かったというのがあります。
それに伯爵家、侯爵家ともなればその家に仕える使用人の大半は貴族家出身となります。私もその内の1人という訳です。
そんな特に珍しくもない経緯で使用人をしていた訳です。
「そろそろ着きそうですね」
乗合馬車から見える景色で、今進んでいる場所が実家の近くであることがわかりました。
「受け入れてもらえると良いのですが」
実家の屋敷の入り口の前に立ち独り言ちる。やはり不安ですね。
ノッカーを使い屋敷の使用人を呼びます。突然の帰還であるため、さすがに使用人以上の存在が出て来ることはないでしょう。
「どなた様でしょ……あ、少々お待ちください!」
「え? はい?」
不可思議な対応をされましたね。どういう事でしょう。
ドアの隙間から顔をのぞかせた使用人と思われる方は私の顔を見ると、すぐさま屋敷の中へ戻ってしまいました。
暫くしてまた扉が開きました。
「お久しぶりですね。ロジー様。ささ中へ」
「あら」
中から出てきて私を出迎えてくれたのは、私がまだ屋敷で生活していたころから実家に仕えていた執事の方でした。当時はまだ若い部類でしたが、今の様子からして執事長かそれに近い立場になっていそうですね。
それから、少々お待ちくださいと応接室に通されました。現当主であるお兄様を呼んできてくださるようです。
しかし、手際の良さから前もって私が屋敷に訪れることがわかっていたような対応ですね。何処かから連絡でも貰っていたのでしょうか。そのどこかは1つしかないのですが。
「やあ、久しぶりだな、ロジー。ははっ、お互い年を取ったものだ」
応接室に入ってきた男性が私の顔を見てそう言い放ちました。
「ええ、20年です。それだけの帰還があれば誰だってこうなりますよ」
実家を継いだお兄様は私よりも10近く年上です。そのため、かなり年を召した見た目になっています。これは当主としての重責を受けているせいもありそうですね。
「予定よりも遅い帰還だったが何かあったのか?」
「予定?」
「ん? 私はオグランの当主からそう連絡を受けていたのだが」
「はい?」
意味が分かりません。私は元旦那様から解雇を言い渡されただけで、実家に帰還するようにとは言われていないのです。どうしてそのような連絡があったのでしょうか。
「聞いていないのか。ああいや、そう言えば国内ではなるべく内密に話を進めていると手紙にあったな。その一環でロジーにも詳しく説明していないのか? しかし、当事者にも説明しないのはどういう訳か。そこまで状況が悪いのだろうか」
お兄様の話からして、元旦那様は私の受け入れ先を作ってくださっていたという事でしょうか。それならそうと言って頂けたら良かったですのに。
「そのなのですか」
「そうだな。あちらも話しておくべきだったと思うが、下手に行動されても困ることになるのかもしれないな。少しでも情報の漏洩を防ぐ方法としてはありえなくはない」
「そうですね」
最初からすべてを理解しているように動けば、不正なり何なりをしていると疑われる可能性もありますからね。仕方のない事なのかもしれません。気にし過ぎな気も致しますけど。
「とりあえずお帰りロジー。君の受け入れについてはもう準備は済んでいるよ。しばらくの間はこの屋敷で休むと良い」
話が早く拒否されないのは有り難いですね。
「ありがとうございます。しばらくの間、厄介になりますね」
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