該当する章:国を出ましょう
返事を送った翌日、幼馴染との再会 ※アレス視点
レミリアへ亡命の受け入れを認める返事を送った翌日。俺はアレンシア王国ではなく、ガーレット国側の国境付近に居た。
5年前の事件以降、アレンシア王国の隣国であるガーレット国は事件の際に失った騎士団の補充が間に合っておらず、国境付近の警備を部分的に周辺国が手を貸している状態だ。
俺がガーレット国内に居るのもそれが理由で、今回は正式な依頼も入っている。
どうやら国境から少し離れた場所に盗賊団がたむろっているらしく、ガーレット国からアレンシア王国側へ移動する馬車を襲っているらしい。しかも、襲うのは乗合馬車。荷物を運んでいる馬車ではないのが厄介なところだ。討伐するか捕縛する際に下手をするとその乗合馬車に乗っていた人を人質にとられかねない所が厄介過ぎる。
その盗賊団が人さらいをしている以上、後ろに奴隷商がついているのだろう。いや、堂々とやっているところからして奴隷商だけではなく貴族も後ろについているのかもしれない。
今回はその可能性が高いため討伐ではなく捕縛が絶対条件だ。まあ、全員死んでいなければ問題ない程度の条件ではあるが。
ガーレット国に限らずアレンシア王国も他の周辺国も、奴隷を持つことは許されていないし、奴隷商も禁止している。そのため、それに関わる事も犯罪に当たる。少しでも利を受け取っていれば、ではなく関わるだけでも犯罪になる。
なるべく盗賊団に気付かれないよう馬を使わずに移動する。
馬を使って移動すれば移動速度も上がるし視点も高くなるため、相手を発見することには役立つ。しかし、視点に関しては相手にとっても同じ条件になってしまう。さらに言えば馬は走れば普通に俺たちが歩くよりも大きな音が立ってしまうから、音でも気付かれる可能性が高くなる。
そんな訳で俺たちは足音をあまり立てないように歩いて移動している。
「怠いなぁ」
「装備を付けている以上、普段歩いている時よりも重いですからね」
「それな」
俺の呟きに近くに居た隊員が相槌を打ってきた。会話は気晴らしになるが、今はあまり良くないだろう。今のは俺が悪いので叱ることはしないが、口をつぐむよう動きで指示を出した。
少しの間捜索をしていると死んだ馬を背の高い草の中へ隠している2人組を見つけた。変に隠そうとしている所からして真っ当な奴らではないだろう。もしかすれば件の盗賊団かもしれない。
すぐさま他の隊員に指示を出し、こそこそと動いている2人を取り囲んで行く。そして包囲が完了した瞬間、すぐに2人組を取り押さえに動いた。
「アレンシア王国所属、グレシア辺境伯軍だ。お前たちに聞きたいことがある」
「ぐぐっ、話すことは何もない!」
地面に押さえ付けた男に話しかける。ありきたりな反応だが、反応からして一般人という線は消えたな。おそらくこいつらが件の盗賊団だ。
「今、隠そうとしていた馬は何だ?」
「知るかよ。俺は隠すように指示されただけだ。他は何も知らねぇ」
「放せよ! ボケぐげ!?」
大声を上げようとした片方の男の拘束を強める。今ここでこいつらの他の仲間に気付かれるのは良くない。
「叫んだり抵抗したりすれば殺すことも視野に入れている。大人しくこちらの問いに答えろ」
「はっ、どうせ殺すつもりなんてないんだろっぎ!!?」
声を上げようとした男の腕に剣が刺さる。同時に声を上げられないように拘束を強めた。
「次に叫ぼうとすれば殺す。こちらの質問に答えなくとも殺す。いいな?」
そう脅しをかけて動きを封じる。さすがに片方の男の腕に剣を刺されたことでこの脅しが嘘ではないことを察したのか、男たちはそれ以上叫ぼうとはせず、質問にも従順に答えていった。
2人の内、剣を刺していない方にいくつか質問をし、これ以上情報は吐きそうにないと判断したところで、近くを調べていた隊員が近くの林から馬を連れて来た。
捕縛している男たちの反応からして、どうやらこの盗賊団の足として使われている馬だろう。
隠そうとしていた死んだ馬も2人で運べるような重さではない。その馬を運ぶのにもこの馬を使った可能性はある。しかし、盗賊団が持っている馬にしてはなかなかにいい馬だな。盗んだ馬か?
ともかく、見つけてしまった以上放置は出来ない。それに放っておいたら他の盗賊団がこの馬に乗って逃げられる可能性もある。
そういう訳で馬に乗っていない俺を含めた隊員が先行し、馬を連れた隊員が少し距離を空けて付いてくる形にした。
そして捕縛した盗賊団の情報を元に街道へ移動する。
先ほどの馬は乗合馬車を襲った際に殺してしまった馬のようで、あの2人は馬を隠すついでに移動用の馬を取りに来ていたらしい。
とりあえず盗賊団の足である馬を確保しているため、すぐに乗合馬車に乗っていた人たちが連れ去られることは無いだろう。しかし、何もされていないとは言い切れないので、なるべく音を立てないようにしながら急いで移動する。
街道に近付いたことで乗合馬車の屋根が見えた。そしてそのすぐ後に盗賊団らしき者たちが一人の男性を組み敷いている光景が目に飛び込んで来た。
それを確認して直ぐに武器を構えるように指示を出す。そしてある程度まで距離を詰めたため、足音を抑えるのをやめ一気に盗賊団の者たちを取り囲むように動き出した。
俺たちが周囲を包囲し始めた音に気付いたのか、盗賊団の1人が俺達の方へ向いた。どうやら、ここへ行きたのが先ほど捕縛した2人組だったと思っていたらしく、俺たちを見た瞬間、そいつは少し呆けたような表情をしていた。
「私たちはアレンシア王国所属、グレシア辺境伯軍だ。この辺りでデレス盗賊団と名乗る無法者が居ると聞き、討伐に来た。しかし、抵抗しなければ殺すことはしない」
そう宣言すると周囲に居た騎士団が大きく動き出す。それにつられて盗賊団の者たちも逃げ出そうと一斉に動き出した。しかし、盗賊団の1人、先ほど真っ先に俺たちのことに気付いた男が乗合馬車に乗っていたと思われる女性を人質に取ろうとした。
しかし、それと同時にその近くに居たもう1人の女性が、人質として取られそうになっている女性を庇うように男へ近付き、一瞬のうちにその男を地面に叩きつけた。
「えぇ……?」
助けようと策を考えようとしたところでの出来事だったため、情けない声が出てしまった。しかし、あの女性が人質になる前に助けることが出来たのは本当に良かった。
ああいう動きが出来るのならばさっさとそうして盗賊を蹴散らしてしまえばいいのに、どうしてそうしなかったのか。盗賊も1人ではないから勝算が薄かったという事か?
ともあれ、あの女性には感謝を述べて事情を聞くことにしよう。他の乗合馬車に乗っていたと思われる人に比べれば冷静に受け答えをしてくれ……そう……だ?
あの女性の顔をよく見てみる。最初は距離があったからあまり詳細に見えなかった。話を聞こうと近付いたことで顔の特徴がよくわかるようになって気付く。
なにか見たことある顔だなぁ。
そう言えばあいつの母親って自己防衛について教えていたよな。貴族に生まれた者、ましてや回復士たる者、周囲に守ってもらい騎士に傷を負わせるのは本末転倒とか言っていたよな? 記憶があいまいだが、その辺りは結構鮮明に覚えている。
衝撃的だったし、当時の俺はレミリアの母親にコテンパンにやられていたからなぁ。
それもあって5年以上前から体術だとレミリアの方が上手かったから俺でもそこそこ負けていたんだよな。当時は体格的に同程度だったから動きが上手い分、俺の勝率は半分を下回っていた記憶がある。
既に5年以上前の話だが思い出すと、遠いところを見たくなるな。懐かしい気持ちにもなるが、あまり良い記憶でもないな。
まあ、とりあえず、別人かもしれないからもう少し近付いて確認することにしよう。
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