4 カラオケ。
「有馬! カラオケに行こう!」
有馬真一は振り返った。
大型犬を彷彿させる長身の男が駆け寄って来た勢いのまま真一の肩に腕を回す。
この傍迷惑な男は、佐倉要だ。
「行くわけないだろ」
眉間に皺を寄せ応じれば、佐倉は意味深な笑みを浮かべた。
「有馬は、カラオケに行った事ないんだろ?」
「無い。だから何だ。何の問題も無いだろう?」
「問題があるんだよ」
「……?」
首を傾げる真一には佐倉は更に顔を寄せた。
「千鶴ちゃんが行きたいって言ったら、どうすんの?」
「その時は一緒に行けばいいだけだ」
ふ〜んと、言いながら、今度は佐倉が首を傾げる。
「カラオケってさ、機械の操作とかあるんだよ。有馬は使えるの?」
「一般の娯楽だ。難しい操作が必要な機械があるとは思えない」
「まあ、そうだけどさ。知ってると、スマートだよ。キョロキョロ辺りを見回したりしなくてすむよ」
「知ったかぶりをする方が滑稽だ」
「まあ、そうだね。じゃあ、俺は今からカラオケに行ってくるよ。誘われてるんだ。個室だからさ、千鶴ちゃんと一緒に行ったら意外と楽しいんじゃないかと思ったんだけどね~」
じゃあね、と佐倉は片手を軽く上げるとそのまま立ち去ろうとする。
「待て」
思わず佐倉の背後から右肩を掴んでいた。
「俺も連れて行け」
「! 大歓迎さ!」
大喜びの佐倉は、再び真一の肩に腕を回すと、引きずづるように突き進んでいく。そのまま同級生の女4人と合流するとカラオケ店へと向かった。
浮足立ち、大盛り上がりを見せる自分以外の人たちの様子を横目に、真一は大体の流れを掴むと、当初の約束通り、1時間で店を出た。
だが、なぜか真一に引っ付いて佐倉達まで店から出てきた。
「ねえ! 有馬君、もっと遊ぼうよ!」
「1曲だけなんて寂しいよ! もっと歌ってほしかったな。私、有馬君の声も大好き!」
カラオケ店のノリのまま、あっという間に真一は両腕を捕捉されていた。
「真一……?」
小さい声だったが、真一の耳はしっかりと捉えた。全力で振り向き、そのまま固まる。真一の視線の先に、目をまん丸にしてこちらを凝視している千鶴がいたのだ。彼女の隣には、呆れた表情で三嶋舞も立っている。
「あ~らら」
真一の隣からは呑気な声が漏れ聞こえて来た。その声に反応する暇もなかった。
「ご……ごゆっくり」
千鶴は意味不明な事を口走ると三嶋を連れて慌てて立ち去ろうとする。真一は千鶴の後を追おうとすると、腕を掴んでいた女達が引き留める。
「待ってよ! どこに行くの?」
「あの子は、俺の彼女なんだ」
そう言って真一は千鶴の後を追って駆けだしたのだった。背後からは女達が驚く声が聞こえていた。
もちろん、その後、真一は理由をしっかりと説明して、千鶴とカラオケに行ったのだった。
君のことが好きなんだ【番外編】 待宵月 @Snufkin_Love
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