3 放課後。
放課後、稜蘭高校の中庭の片隅で、有馬真一は別のクラスの女生徒と向かい合って立っていた。
「A組の島山みさきです。入学式の日から有馬君の事が好きなんです。私と付き合ってください」
島山は少し化粧をしているようだった。唇が色づいている。千鶴にも似合いそうな色だなとぼんやり思う。
「ありがとう。でも、俺には大切な彼女がいるから付き合えない」
「そうなんだ。分かった。じゃあ、一枚だけ一緒に写真を撮らせてもらっていい?」
真一が小さく頷くと、島山は嬉々としてポケットからスマホを取り出した。真一と一緒に映れる角度にスマホを持ち上げ、裏ピースで満面の笑みを浮かべてる。
ありがとうと言って駆け去っていく島山とすれ違うように、また別のクラスの誰かが走ってくる。
「有馬君!」
「……」
実はこのようなやりとりをすでに7人と繰り返していた。
本日、最後に来た同じクラスの高橋舞花が立ち去った後で、ニヤニヤと締まらない笑みを浮かべて佐倉が姿を現した。
「有馬はさ、何でこんな状態になってるか、自覚ある?」
3日前から突然始まった告白の嵐はどうやら真一自身に原因があると佐倉は言いたいらしい。
だが、真一にはまったく身に覚えがなかった。
彼女が居ない時ならまだしも、真一にはやっと手に入れた可愛い千鶴という彼女が出来たばかりだ。
今までにも告白された事はある。
しかし、これほど連日次々に告白されるのは異常事態だ。
「……佐倉には理由が分かっているみたいだな」
ため息混じりに呟けば、当然とばかりに佐倉が笑みを深める。
「色気がダダ漏れになってるんだよ」
「は?」
目を細くして佐倉を見る。一瞬でも佐倉の事を流石と思ってしまった事を後悔した。半ば呆れながら教室へ戻ろうと佐倉の横を通り過ぎようとした瞬間、佐倉が再び口を開いた。
「千鶴ちゃんと両想いになれたからじゃないかな」
「! 両想い……」
真一は立ち止まり、佐倉を振り返った。
『両想い』とは、なんていい響きだろう。10年前の自分に教えてやりたいと真一は思った。
「そう、今の有馬からはトゲトゲした雰囲気が薄れたように感じるんだ」
トゲトゲしていると感じながらも真一に関わろうとしてきた佐倉のメンタルの強さに改めて驚く。
「これまでの有馬なら、こんなところに呼び出されても来なかっただろう? 写真を一緒に撮るなんてありえなかったじゃないか」
確かに、言われてみれば千鶴への想いが受け入れられたことで、今までと色々感じ方が変わったのかもしれない。想いを伝えられない苦しさを知っているだけに、受け入れられないが、聞くだけなら出来ると今は思っている。今までは、自分の事だけでいっぱいいっぱいになっていたのだ。
千鶴に受け入れて貰えた事で、真一は変わったという事だ。
(では、千鶴も変わっているのだろうか?)
ふと疑問が脳裏を過ぎる。
もし千鶴も真一と付き合う事で、真一以外の人を惹きつけ始めたらと、不安が膨らんでいく。
やはり、今まで以上に千鶴には真一がいることを周りに周知させないといけないなと強く思う真一だった。
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