第965話◆閑話:お嬢様の秘密の事情――弐

 ここはわたくしが経営する平民向けの生活用品店の応接室。

 ターゲット様と飼育員様が同棲をされているという話は知っておりましたが、まさかこうして間近で仲睦まじくカタログを覗き込んで生活用品を選ぶをする姿を見ることができるとは……眼福アンド役得すぎますわああああああ!!


 公式に触れるべからず、という規則はあるのですが向こうから触れてくるものは仕方ないので、我々の活動を決して悟られぬよう、公式様に迷惑をかけぬよう、そして頼られたからには満足していただけるよう全力を尽くし、公式様の健やかなで平和な生活を支援しまくるのです。


 飼育員様がマイホームをご購入され、そこにターゲット様が押しかけて同棲生活が始まり、最近ではバケツ様も合流、そしてニューフェイスのお犬様もどうやらご一緒だという情報は把握しておりましたが、さすがにご自宅には近付かぬようにしていたため公式様のプライベートは謎に包まれたまま。

 それが昨日、突如大量の情報を公式様が容赦なくポロリされまして……え? お風呂の椅子が三つ!? 四つ!? え? 大きなお兄さんが三人とワンコ君の合わせて四人で、風呂椅子が四つ?

 あ……小さな子供用? ならば安心……じゃない!! どちらのお子様!? それと同居されてるのは成人は生物学的に男性ばかりだと思ってましたが!?

 あぁ……飼育員様に餌付けされた方のお連れ様。なるほど餌付けなら仕方ないですわね。


 危なく夢のような誤解をするところでしたが、やはり現実は非情というか現実はそこまで奇ではなく、安心したような残念だったような……いやいやいやいや、あくまでわたくし達は見守りながら麗しい殿方達がじゃれあう場面からしか得られない栄養素を摂取しているだけですので!!


 それで一緒に暮らしている中には謎の小動物もいるようなことを飼育員さんがポロリしておられましたが、時々飼育員様の方に乗っているあの綺麗で不思議なカメさんのことだと思っておりましたの。

 ええ、綺麗で不思議なカメさん。亀なのにカメーっと鳴くカメさん。


 はて……カメってカメーって鳴くものなのですの?

 わたくしの古い記憶では亀は鳴かない生きものだったような気がするのですが、ところ変われば生きものも変わるものでしょうしこの世界は未知に溢れておりますので、亀がカメーと鳴くことくらい……いやいやいやいやいや、やっぱ亀はカメーとは鳴かないと思いますの!!

 少し自信がなくなってきたので、近いうちにこの世でもトップクラスで物知りであるベテルギウスおじ様に亀がカメーと鳴くか尋ねてみようと思っていましたの。

 ええ、かの偉大な古代竜シュペルノーヴァなら亀がカメーと鳴くか鳴かないかくらい知っていると思いまして。


 と思った矢先になぜか、ベテルギウスおじ様が子サラマンダーの姿で飼育員様の腕にガッチリホールドされた姿でわたくしの前に現れましたの。

 ええ、なんとなくわかります。

 飼育員様達の買い物についてきたら、その取り引き相手がわたくしだということに宿屋前に到着した直後に気付き逃げようとして、古代竜相手に保護者面している飼育員様にバッチリガッチリホールドされてしまったのですね。

 なんだか外で飼育員様達が騒いでいるような声がするなーと思い出てきたらこれですわ。

 しかし子サラマンダーに化けているとはいえ、かのシュペルノーヴァをガッチリ捕獲して逃がさない飼育員様はもしかして実は人間を遥かに凌駕する力をお持ちなのでは?

 ……ま、あそこの方々は皆様我こそは普通だと信じて止まない普通では人の集まりですからね、いちいち気にしていたらツッコミが間に合わなくなりますわ。


 と、少々意味がわからない状況でしたが、とりあえず飼育員様方はその子サラマンダーの姿のおじ様が何者であるかは知らなくて、当然わたくしがその子サラマンダーと親しい関係にあることは悟られてはならないということは即理解しました。

 ボロを出さないように気を引き締めて、本日のお買い物のご案内を致しましょう。


 と思ったらこのサラおじ、自分達のものを選び終わったら飼育員様に抱えられたままピーピーと鼻を鳴らして居眠りを始めましたわ。

 外の気温は高いですがここの室温人間が涼しく感じるくらいに設定されておりますので、熱気の満ちた場所を好まれるおじ様には少々肌寒いのかもしれませんね。それで飼育員様に抱えらているうちにポカポカとしてきて眠くなってしまったと?

 わたくしの記憶では、古代竜という生きものは時々訪れる休眠期以外は特に睡眠を必要としない生きものだと聞いたことがあるのですが?

 何ですか? その飼い慣らされてすっかり野生を失ってしまった猫のようなお姿は? 古代竜をお辞めになられて飼い 猫にでもなられたですか?


 確かにそのお姿は非常に愛らしいのですが、中身はベテルギウスおじ様そして古代竜シュペルノーヴァ。

 子サラマンダーの姿は可愛いのですが、あの強面おじ様が、国一つくらい簡単にひっくり返してしまう強大な古代竜が、威厳もおクソもない姿で居眠りを始めてしまいわたくしはもう腹の底から笑いが込み上げてくるのを我慢するのに必死ですわ。


 飼育員様の肩の上ではあの青いカメさんもペタンとなって寝てしまってますわ。

 こちらは居眠りどころかガチ寝に入りそうな勢いなのですが、ウトウトッとしたところで飼育員様が着けてらっしゃる耳飾りからトカゲの形をした炎がヒュッと伸びてカメさんの頭をぶん殴って。カメさんが目を覚まして周囲をキョロキョロする前にサッと耳飾りの中に戻っているのを先ほどから何度も見ておりますの。

 そのトカゲの形になる炎、力はそこまで強くはなさそうなのですがおじ様の真のお姿を小さく可愛くしたように見えるのは気のせいですかね?


 というかその炎のトカゲの魔力がすごくおじ様ににているというか、フレッシュなおじ様というか……ていうかその耳飾り、わたくしの鑑定能力では詳細はわからないのですがソウル・オブ・クリムゾンという名はなぜかおじ様を連想するのですよね。

 意味ありげな耳飾りといい、その耳飾りから出てくる謎の火トカゲといい、おじ様が飼育員様と一緒にいることと何か深ぁい関わりがありそうだと、わたくしの二次創作センサーが申しております。

 そこのとこ今後の創作活動のためにぜひぜひお聞かせ願いたいところでございます。



 といった感じでわたくしとベテルギウスおじ様はそれなりに親しい仲というか、家門ぐるみで恐ろしく長い期間シュペルノーヴァとの付き合いがあり、プルミリエ侯爵家の長女として生まれた者としてベテルギウスおじ様とは幼少のころから家族のような付き合いが続いている。

 親戚のおじさんのような存在であり、時には魔法や学問の師であり、今ではわたくしの商売の得意先でもあり、そして何よりあの日あの時、わたくしのあの記憶を蘇られた存在。


 あの記憶――この生ではない時の、ここではない世界の記憶がわたくしにはある。


 あの日、まだクソガキで我が儘放題のお嬢様だったわたくしは、プルミリエ侯爵家本邸を訪れていたベテルギウスおじ様と遭遇し、この世の恐怖の塊に出会ったような気分になりパニック状態で逃げだし、壮絶にすっころびオデコをがっつりぶつけた上に高熱を出し数日に渡って意識が戻らなかった。

 そして目を覚ますとあの記憶がスポッと頭の中に収まっており、それまでの記憶と合わさって更に混乱してもう数日寝込むことになったあの出来事。


 目覚めた後は前の生での記憶のおかげで、我が儘クソお嬢様を卒業して無事普通のお嬢様の道を歩み始めることとなった。


 侯爵家? 有能なお兄様とどちゃくそ強い叔父様? イケオジ風のお父様とお父様と叔父様と我が家に出入りしている謎のリザードマンのおじ様?


 え? 婚約者? 同じ年頃の貴族の坊ちゃん? 近いうちに遠い親戚から子供を引き取って義弟になる? え?


 えぇと、わたくしの容姿はめちゃくちゃつり目に金髪縦ロール。



 んんんんん? こ、これはもしかしてわたくしってば乙女ゲームの悪役転生しちゃいました!?



 なんて勘違いするところでしたわ、あまりにも前世で乙女ゲームにありそうな環境すぎて。

 でも案外こういうベタな乙女ゲームってありそうでないんですよね。


 そんな勘違いをしそうになりもしたがもちろんそんなことがあるわけがないことにすぐに気付いたの幸い。

 だってこの世界はこの世界の生命で溢れ、前世と同じように世界には数多の歴史と文化が溢れていた。

 そして前世にはなかったもので溢れるこの世界での新しい人生を、全力で楽しもうと思うようになるまで時間はかからなかった。



 だってこの世界、老若男女問わず顔面偏差値の高い方が多すぎるから――創作意欲が滾りますわ~~~~~~~~!!







※遅れましたがコミカライズ1巻発売記念にグランとアベルの子供の頃の話を公開してます。

よろしかったら覗いてみてください!!


https://kakuyomu.jp/works/16817330656000800594/episodes/16818093088515294518

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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~ えりまし圭多 @youguy

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