春の話
疲れた体をゆったりと起こし、のそりと車から降りる。
月が雲に隠れ、ぼんやりとしか光を放たない闇夜の中、人の気配に車庫のライトがゆっくりと周りを照らした。
降りた足元には真っ白な花びらが雨上りの水溜まりのように点々としていた。
(梅か)
欠伸をしながら隣の家の末広がりな枝を見つめる。
数週間前の極寒の日、枝に雪の花を咲かせていた枝には本物の真っ白な花が咲き誇っていた。
不意に鼻が痒くなり盛大にくしゃみを放つとそれに呼応するかのようにふわりと風が吹き抜けた。
花びらがひらひらと風に運ばれる。
それは本当に雪のようで束の間の冬の時間が通り抜けた気分だった。
またくしゃみ。
さすがにまだ風は冷たい。
欠伸を噛みしめながらそそくさと玄関を目指す。
頭には春を告げる真っ白い雪が乗っかっていた。
過ぎ去った季節に捧ぐ 葉六峰なゆ太 @Ha6mine_7yuta
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