過ぎ去った季節に捧ぐ
葉六峰なゆ太
秋の話
私の一番嫌いな季節が来た。
外に出ると所々で小さな橙色の花が咲き誇るこの季節である。
鼻を霞め、体を包み込んできた甘いその香りを私はしかめっ面で受け止めた。
別に私は花粉症でもないし、この冷たくなってきた風が嫌いなわけでもない。
この、あるだけで強烈に薫るこの香りが嫌いなのだ。
花は好きでも嫌いでもないし、香りも同じくだ。
ラベンダーとかバラとかウッドとか。
好みだなんだと騒ぐやつがいるが別にである。
ただ、こいつだけは。このちまちまと咲くこの花は嫌いだ。
この香りは、この香りは。
私の隣にいつもいた屈託のない笑い顔を思い出させる。
この香りを胸一杯に吸い込んで、幸せそうに笑っていたあいつを。
まとわりついてきた香りをはらうかの如く頭をぶんぶんし、脳内の笑顔のそいつに背負い投げを決める。
でも、投げたのにそいつはこっちを見てにへらと笑う。
心底腹が立つ。
現実に漏れた溜め息はその甘い香りと共に私の知らぬところへとゆったり運ばれていった。
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