第二話 天災

 ☆☆☆


 窓の外がピカッと光ってすごい音がした。


 「ひゃっ・・・・」


 びっくりしたぁ。「今夜はなかなか寝られそうにないな」と私はひとり自室で呟いた。


 今は荷物や家具の整理を終え、寝ようとしていたところだ。


 実際、今日はなかなか寝られそうにない。約5年ぶりに再会した彼のことが気にかかっていたからだ。


 「せーや・・・・」


 ベッドに寝転がりながら彼のことを考えていた。


 昔のせーや。私が彼を「冒険だ!」とか言って振り回していたけれど、何度も私を助けてくれた。「大丈夫だ。ハルは俺が守ってやる!」ってね。実際心強かった。


 けれど今日見たせーやの姿。身長はすっごく伸びて成長していたけれど、なんか全身から負のオーラを漂わせるようになっていた。なんか目の下にうっすらクマを浮かべていたし、前髪も長めで「左目とかちゃんと見えてるの?」って感じだった。


 まぁ、言葉を交わしてみれば「ああ、せーやだ」って感じだったけれど。


 うまく言えないのだけれど、何かが大きく変わっていた。


 「ああ・・・眠くなってきた」


 だんだんと視界がぼやけてきた。


 ま、明日から新しい高校で新しい生活を始めるのだ。早く寝よう。


 そうして私は夢の世界へと入っていったのだった。その夜、おかしな夢(?)を見た。夢の中の私の前に全身真っ白な姿をして、ほんのりと全身から光を発している少女が現れたのだ。


 そして彼女は私にこう言った。


 「突然で悪いんだけど、わたしのお願いを聞いてくれないかな?」


 お願いの内容を聞いてみると、それはもう突飛なものだったので驚いたが、事情を聞いてみると首を縦に振るしかなかった。


 私は、すごいことに巻き込まれてしまったのだった。


 ★★★


 翌朝、8時に起きて朝食を済ませ、半分寝ぼけたまま学校に行き、教室の自分の席に座ると教室内がいつもより騒がしかった。


 「なぁなぁ、今日転校生来るらしいぜ!」

 「聞いた聞いた。噂によれば結構可愛いらしいぞ?」

 「マジかー!何でうちのクラスじゃねぇんだぁー!」


 近くの男子がそんな内容の会話をしていた。ふーん、うちのクラスじゃねぇのか。よかった、よかった。


 同じクラスになろうものならいろいろと面倒なことになりそうだからな。こればかりは神様に感謝。普段神頼みしても全然効かないけど。


 騒がしい理由はハルが来るからだと思っていたが、別の内容について話している会話が聞こえてきたのでそっちにも耳を傾けてみた。


 「ねぇ、昨日の雷すごかったね」

 「ほんと、ほんと マジやばかった。なんか話によると頂上にちっちゃな神社があるあの山に落ちて、そこの祠が燃えちゃったらしいよ」

 「へぇー、あの神社の祠が・・・。まぁ、ちょっと不気味な感じもするから小学生のとき以来行ってないけど」

 「でも事実だとしたらちょっと不吉じゃない?祟りとか起こったりして」

 「ちょっと、やめてよ。私、そういうの苦手なんだから!」


 へぇー、あの神社の祠、燃えたのか。まぁ、だから何だって話だが。別に俺は神とかそこまで信じちゃいない。誰かが言ってただろ?「神は死んだ」って。


 キーン、コーン、カーン、コーン


 予鈴のチャイムが鳴ると同時に教室の前の扉が開いて教師が現れた。担任の冬島ふゆしま先生だ。キャリアウーマンといった感じで、スーツをぴっちりと着こなし、眼鏡をかけた国語教師だ。


 「はーい、皆席につけー」


 俺は教室の隅の席で窓の外を眺めていた。晴れではなかったが、雲の間から太陽の光が漏れ出していて少しばかり神秘的に見えた。


 今日は何かいいこと・・・・あるといいな。


 ま、多分何もないだろうけど。


 ★★★


 昼休み。クラスのほとんどの男子、一部の女子がこぞって転校生を見ようと教室を出ていった。そんなに見たいんですね、と思いました。


 俺はひとり静かに昼飯でも食うかと思って弁当を開けようとしたところに廊下の方からバタバタとした音が聞こえてきたのでそっちに目を向けたときだった。


 が、教室の後ろの扉の前に現れたのだった。


 「やっほー!せーや。一緒にお昼食べよ?」

 「・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・は?


 そう、ハルが現れたのだが、昨日とは全く違う明るい様子に俺は戸惑いを隠しきれなかった。


 『・・・・・・・・・』


 教室にいた全員が、そして廊下にいた全員もしばし沈黙していた。


 そしてその後には・・・・・


 『せーやぁぁぁぁぁ!?』


 と声を揃えて言うのだった。みなさん仲がよろしいことでなによりです。


 なんか男どもが近寄ってきやがった。


 「おい、どういうことだ月見!」

 「そうだー!どういう関係だこら!」

 「つ、付き合ってんじゃないだろうな?」


 はぁぁぁぁ、めんどくせぇー!


 俺は深々とため息をついて頭をボリボリと掻きながら口を開いた。


 「別に、ハルとはなんもねぇよ。ただの幼なじみだ」


 言ってから「しまった」と思った。だが遅かった。俺が言い終わるのと同時に男どもがまた一斉に口を開いた。


 「は、ハルなんて呼んでるのか!?」

 「おいおいおい、随分仲がよろしいんですねぇ!」

 「うらやま死ねこら!」


 おい、誰だ死ねって言ったやつ?ちょっと前に出てきなさい。


 俺がガクッと項垂れていると、不意に後から肩をつかまれた。


 「ごめんね、みんな。せーやと、ふたりきりで・・・・食べたいんだ」


 顔をあげて後ろを見ると、ハルが皆に向かって微笑みながらそう言っていた。


 うーむ、なんか瞳がうるうるしてる気がするのだが、仕草が嘘臭いな。


 だが俺を取り囲む男どもには有効だったようで、「ちっ、許してやるよ」「今日のところは勘弁してやる」「せいぜいお幸せに」なんて言葉を残して去っていった。


 はぁ、数日は面倒なことになりそうだ。


 「おい、お前どういうつもりだ?」


 ハルに問いかけると彼女はきょとんとしながら首をかしげた。


 「どういうって・・・別にお昼に誘っただけだよ?」

 「それは分かってる。そうじゃなくて、今日は昨日とは違ってやけに陽気だが何を企んでるんだって聞いてるんだ」

 

 まぁ、昔のハルはあんな感じだったのだけれど。


 俺が言い終えると、ハルは今やっと理解したような顔をした。


 「ああ・・・あはは。バレたか」


 そして苦笑しながらそんなことを言うのだった。なんだ、やけにあっさり認めたな。それと、雰囲気が昨日の感じに戻った。


 「いいよ、教えてあげる。けど、ここじゃあれだから外のベンチ行こ?」

 「・・・・分かったよ」


 断る理由が特に見つからなかったので了承し、弁当を持ってふたりそろって外に出て中庭のベンチに向かい、腰を下ろしたのだった。俺とハルの距離は人二人分空いていた。


 「もっと近くに座ればいいのに・・・」

 「うっせぇ。さっさと話せよ」


 俺が催促すると、ハルは「はいはい」と言ってから口を開いた。


 「昨日、あの公園がある山の頂上に雷が落ちて神社の祠が燃えちゃったってのは知ってる?」

 「・・・耳にはしたけど、それがどうかしたのかよ?」


 なぜそんな話を始めたのか理解できなかった。だから何だっていうのだろうか。


 ハルが俺の目をしっかりと見据えてきたので俺も同じように彼女の目を見た。


 俺が言い終えてから少し間を開けて、それからハルがゆっくりと口を開いた。


 「うん、それでね・・・・せーやには神社が無事に再建されるように手伝って欲しいんだ」

 「いや、どうして俺に・・・?そういうのは俺なんかに頼むんじゃなくて、役所とかそういうとこに・・・っていうか、どうしてお前はあの神社が再建されて欲しいんだ?」


 頭の中は疑問だらけだった。一町民の俺なんかができることなどほとんどありはしないはずだ。


 ハルは困ったように笑いながら答えた。


 「疑問はもっともなんだけど・・・ごめん、理由は言えないんだ。ただ、あの神社は古いし、跡継ぎがいなくなって誰も手入れしてない。このまま行くと多分そのまま壊される。あそこがなくなると、わたしが困るしせーやたち町民にも困ったことが起きるんだよ」

 「何で壊されるって決めつけてるんだよ?多分町内会のお年寄りとかは反対すると思うぞ?」

 「確かにおじいちゃんおばあちゃんは反対するだろうけど、絶対に壊されるよ」


 なぜだか知らないがハルは確信を持っているようだった。俺を見つめるその目と口調には確かなものを感じた。


 だがまだ知りたいことはある。


 「お前、随分とあの神社のことに詳しいんだな?」


 今日で引っ越してきて二日目だというのにどうしてそこまで知っているのだろうか?まぁ、昨日一日で知ったって可能性はなくはないが。


 「え、ああ・・・それはせーやが知らないだけで昔、あの神社によく願い事をしに行ってたんだよ。だから今はどうなってるかなーって思って昨日町の人に聞いてみたの」

 「・・・・・そうか」


 なんか一瞬戸惑ったような反応を見せた気がするが・・・


 まぁ、とりあえずはスルーしておこう。


 次の質問だ。


 「俺たちに困ったことが起きる、なんてことも言ってたな。それは一体何が起きるっていうんだよ?」

 「・・・・・他の人には言わないで欲しいんだけど、」


 そう前置きした後、こんなことを言い出すのだった。


 「天災だよ。それも町を飲み込むほどの大規模な」


 

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