第16話 《凶悪運》


「―――つかぬ事を聞くが、セレス、家はある?」俺は率直に訊いた。

「無くなりました。」

「そうか・・・。じゃあ、ウチ来る?」

「いいんですか!?」セレスが笑顔を浮かべる。あー、俺明日死んでもいいかも。


「待ちなさいクソ変態ロリコン。」ルヴィが声色を変えて凄んでくる。

「・・何だよ、セレスには早くシャワーを浴びてフカフカのベッドで眠って欲しいだろ?」

「うわ今のきもかったわ。それに、服はどうするのよ。」

「服は問題ない。何とかなる。」

「何でよ。それ聞いて、ああそうか、成程とはならないわよ。普通私でしょ、その子の世話をするのは。異性でくっつかないで。」

「・・・あのな、お前この前何て言ってたか覚えて無いのか?皿は割るし料理は出来ないし掃除もどうやればいいか分からないとかほざいて無かったか?」

「ぐっ・・・。」

「俯瞰で見ても、生活力あるのは俺の方だろ。お前に任せられるかよ。」

「・・・でも・・・2人で歩いている姿、犯罪にしか見えないわよ?」

「セレスの歳は36歳ってさっき判明したじゃん。それ見せれば、幾らでも弁明出来る。」

「・・・うーん・・・納得いかない・・・。」

「納得いかないも何も、お前には任せられない。消去法で俺が立候補しているって事を忘れないでくれ。よーし♡セレス、ウチに行こうー!レッツゴー‼」


「レ、レッツゴー・・・?」セレスが恥ずかしそうに言った。


―――そうして、俺はウキウキ気分で家に誘った。


「ここが今借りているお家になります。」

不動産気分で俺は紹介した。

今、俺が住んでいる家は小さめの一軒家だ。幻獣種討伐で余った金で引っ越したのだ。部屋の間取りは2LDKといった感じで、飽き部屋が一室ある。そこに、もし彼女が出来て同居でもしたらこの部屋に住んでもらおーっと、というノリで、ベッドや服などの生活に必要なモノを一式、集めておいたのだ。

 どんな身長の彼女でもいいように、全サイズのパジャマと私服を揃えてある。部屋もピンク多めだ。


 それを何故か家について来たルヴィに言ったら、ドン引きされた。キモ過ぎる、と。

 何処に金使ってんだよ、とかも言われたっけ。


 「セレスはSサイズかぁ♡いいね~。」

 「語尾に♡ついてる喋り方やめなさい。変質者にしか見えないから。」


 今、冷凍式の魔具にある具材で料理を作る。こういう時、手早く簡単なモノが好まれるって、デート雑誌に書いていたので、あまり凝らないモノを作る事にした。結局、何も魔具から取り出さず、常温保存している食材で調理を始める。

 お湯を沸かし、パスタを茹でる。その間にアーリオをみじん切り、オリーブオイルをフライパンに垂らす。アーリオを弱火で色がつく寸前まで炒め、既に輪切りで売られている唐辛子を投入する。

 そして、時間が経ったらそこに醤油を塩気のあるパスタ汁を垂らし沸騰させ、先に乳化を済ませると火を止め、パスタを投入した。フライパンを揺らし、ソースと絡みつくすまでぐじゃぐじゃに混ぜ続ける。

 調理時間、わずか15分。

 ペペロンチーノの完成だ。

 丁度出来上がった頃には、シャワーからセレスが上がって来た頃だった。可愛い服に着替えている。


 「美味しそうな匂いだ!」セレスがテンション高めに言う。

 「俺の手料理だけど、食べる?さっきめっちゃ食べたばかりだと思うけど。」

 「食べたい!!」


 セレスがリビングの机に座る。その時だった。

 セレスが椅子に座った途端、椅子の脚が壊れたのだ。そのままセレスは床に転倒する。


 「・・・あいたー・・・・。」セレスは頭から転んだので、かなり痛そうにした。

 「大丈夫か!?」おかしい。今座った椅子は、俺が今日の朝座っていても何ともなかった。

 「・・・いてて、慣れっこだから、大丈夫です・・。」

 「隣の椅子使いな。」

 「いえ、立って食べます。」

 「え、何で?」

 「これ以上椅子壊しちゃうのは申し訳ないので。」

 「え、どういう原理?」


 そのままセレスが立って食べようとし、フォークにパスタを絡め口に運ぼうとした瞬間、パスタの汁がピュンと、セレスの眼球に飛んだ。不意の激痛に、セレスはすぐフォークから手を離し、眼を抑える。


 「い、いったァァァァあい!!!!!!」

 「だ、大丈夫か!?」


 まあまあな不幸が2連続で続いたので、俺はなんか嫌な予感がした。

 ペペロンチーノは、唐辛子を使ったパスタだ。そりゃ痛いでしょう。

 セレスの右眼から、涙がボロボロと零れる。何だろう、痛々しい光景なのに、笑いそうになるのは何でだろう?


 「もう一回シャワー浴びてきます。」

 「お、おう。眼を洗うんだな。そういう事だな。」


 セレスがシャワー室に向かうその時だった。急に床に躓いて転んだのだ。


 「だ、大丈夫か!?」


 床に転び、少し家が揺れた衝撃で、キッチンに立てかけてある小さなフライパンが落ちて、セレスの頭に激突した。


 「ああ、痛ったい・・・・。」


 今度は、頭を抑えた。

 なんだなんだ。この数秒間の間に、何度不幸が起こった?まだ眼も頭も痛い筈なのに、最後また頭にフライパンが激突するなんて。右眼から、頭の痛みなのかパスタの呪いなのか、謎の涙がまた溢れ出した。

 ・・・これは、もうドジっ子のレベル越えてるって。なにこれ。どうしたらいいの?

取り敢えず、セレスに訊く。


 「・・・え、これ何が起きてるの?」

 「・・・《凶悪運》。」

 「え?」

 「私の持つスキルの影響です・・・。このスキルは、戦闘での生存率やスキル《奪取》の確率が上がる代わりに、私の日常生活に於ける運を極端に下げる効果があります・・・。」


 ・・・マジかよ。

 俺より断然悲惨で外れスキルじゃん・・・。


 取り敢えず、セレスに手を差し伸べる。まだ痛そうだし可哀想だけど、床に寝っ転がっているまま喋るのがなんか嫌だった。そのまま寝っ転がれば、不幸が降りかかり床が抜けるんじゃないかとも思った。

 セレスが、俺の手を握り、立ち上がる。

 すると、眼を見開いて、俺の方を見た。何か起きたのだろうか。


 「・・・・何も、起きない。え、どういう事?」セレスは驚いていた。

 「え、何?」

 「この《凶悪運》は、触れている対象にも不運が起きてしまうんです。」

 「こわっ。呪いじゃん。」

 「今まで、私をこうして助けてくれた人は全員、即効性の、何らかの不幸が起きました。でも、レントさんは触れても、何も起きなかった。」

 「・・・ああ、《状態異常無効》なんだ、俺。その不幸も何かしらの外的要因なら、俺には効かないかもしれない。」

 「・・・え。」

 「確証は無いけどな。その可能性はあるんじゃないか?」

 「・・・・・・ようやく見つけました。私といても、不幸にならない方を。」

 「え。」


 セレスが、眼を輝かせている。パスタの汁ダメージを受けたセレスの右眼は、そりゃまぁ酷く充血していて雰囲気は最悪だったけど、セレスは左目にも涙を浮かべていた。

 ――――ああ、そうか。俺は悟る。

 俺が彼女に必要以上に、優しくなってしまった理由。

 それは、彼女が誰にも理解されない程の、孤独だったからに違いなかった。


 セレスが顔を近づけて来る。

 え、いや、展開早過ぎるって。え、これマジ?ちょっと待って。心の準備が―――――


 「――――おい精神異常者。」俺の部屋から出て来たルヴィが、割って入った。

 「――――何だよ、まだ居たのか。ていうか、俺の部屋勝手に入んなよ。」

 「お盛んな所悪いんだけど、ちょっとどういう事?」

 「え、何?」

 「貴方の部屋、物が何もないじゃない。どうなっているのよ。」


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無能スキル《固定ダメージ》によって勇者パーティを追放されたのは仕方ないとして、これから幻獣種を狩りまくろうと思います。〜今更言ってももう遅い。俺は頭のおかしい女の子達と生きていくんで〜 @DivainK956

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