第十話 タイムアップ

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代償のない行為は、この世に存在できない。 


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 変な子がいる。

 その子は限りなく瀬奈さんに酷似していて、限りなく瀬奈さんとはかけ離れた人物である。

Who is this girl?

  瀬奈さんとは一週間にも満たない時間を重ねてきたが、これは明らかに別人だ。


だから僕は問う。


「あなたはいわゆる、虎をかぶったねこですか?」

「…君が何を行っているのかについては、寛大な私が言及しないでおこう。まあ君っが混乱するのも無理はないかな。でも、君も違いに気づくはずだよ」

「何―――」

「ぶっぶー。外れ―」


 幼稚に指でバツを作って、瀬名は否定する。やっぱ子供だ。


「正解は、かちゅうしゃをつけています」

「なんですかそれ」

「きみはどうやら、女の子の違いにも気が付けない鈍感野郎なんだね」

「あなたはどうやら瀬奈さんではないようですね」


  なぜだろう。

 しゃべる瀬奈さんを見て、天と地ほどの差を感じる自分がいる。


***

 もう夜になった。


「なぜにこうなった…」


 俺は今、有るものを運んでいる。

それはいくつものパーツに別れ、それぞれがかなり繊細なもの。

それが入ったアタッシュケースだ


 中身は、死体人形_ver.2.5、だ。


 正直、この存在のことは記憶から消去されかかっていた。

瀬奈とのの大切な出会いの品であるというのに、だ。


 それを何故、部室で放課後からずっと潜まなければならないのか。

1つ目、流石に目立つ。

2つ目、瀬奈に頼まれたから。


「俺も変わったよなあ」


悪く言えば、平和ボケ。

良く言えば、社会なれ。


まあ社会不適合者である俺が、まともに一般社会に馴染めるわけがない。

 結構しんどい。まとも人を演じるのは。


「慣れ、か」


 十三年間、暗殺者として洗脳された続けた俺が、馴染めるはずがない。

あの平和な空気。

世の中の闇を知らない無知。

そのすべてが―――俺にとっての負担だ。

もうすでに憧れという感情も湧かない。

俺は違うのだと。


 一人だけ、不純物が混じっているような気分だ。


「失敗、ではないかな」


 せめて、何かの救いを求めるようにそう呟いた。


 得られたものはわずかに有る。

例えば日常。例えば友人。例えば―――時間。


***

歩みを進める。

常人では、気配さえ感じられない歩みで。


「愚かね」


 澄野隆也。あなたは昔から。


 暗闇で一寸先が見えなくとも、ひるまず歩みを進める。


 暗闇で彼女の表情は読み取れない。だが、口調には何の感情も含まれていないようだ。

 曲がり角を曲がる。月明かりに照らされ、そこには―――


***

「タイムアップ、か」


 何の代償もなしに、手に入れられるものなんてない。


 暗闇の視界を、月明かりと己の身体能力で補いながら、俺は眼の前の曲がり角を見つめる。


 マネキン人形の入ったアシュターケースを(謎すぎる)、慎重に廊下のはしにおいた。かなりの重量から手が開放され、手首からするりとナイフを抜き取る。


 素早く前進し、気配がさっきからしていた、曲がり角の先を覗く。


「!」


「遅い」


―――曲がり角を覗いても誰もいなかったはずだ。


気付けば既に、背後を取られていたのだから。




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元アサシン高校生が送る青春ラブコメ @prizon

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