第3話 無理
好きな曲は目覚ましにしない方がいい。私は何度もそう思うのに変えられない。あんなに長い夜だったはずなのに、気がつけば友達とチューハイの缶が転がっている。メイクも落としてない。コンタクトも痛い。死にたくなる。なんで目覚ましなんかかけてたんだろう。
リマインダーには今いちばん見たくない文字があった。
「ねえ、芽依、わたしバイト行くから。部屋片しといてよ。」
「うん…わかった…」
というか帰ってくれ。まあ、昨日呼んだのはわたしだけど。
うわぁ。ダメだ。今日の顔面工事は失敗だ。目が痛い。眼鏡でいいや。
なんだこれ、鏡の中に化け物がいる。まあ、今日晴翔さんシフトなかったから、いっか。
誰だよシフトに穴開けた奴。おかげで晴翔さんと会うことになったじゃんか。嬉しいけど、よりによって顔面爆弾な日に。
「おつかれ〜詩織ちゃん。今日眼鏡なんだ。」
ああ、見ないで晴翔さん。死んでわたしの顔面。マジでない。死ね。昼を過ぎても客足が途絶えない。頼む、死んでくれ。こんなんで晴翔さんとまともに会話もできず、タイムカードを切った。30分だけ伸ばしてやた。ざまあみろ。
そんな中、スマホが鳴る。芽依だった。
「ねえ、隼也来てるよ。」
「どこに」
「詩織の家。」
「芽依、まだわたしの家いたの。はあ。」
「うん。どうする。帰ってもらう?てか、まだ隼也と付き合ってたんだ。」
隼也め、無駄に彼氏面しやがって。死ねい。今日はもうお前に構う元気はないんだよ。
「帰れって言って。今疲れてるし。」
スマホをしまう。
「詩織ちゃん。おつかれさん。今日元気ないけど、どうした?」
ああ、隼也さん、優し過ぎる。イケメンすぎ。それに対してわたし一日中不機嫌。ゴミだ。
「いや、大丈夫です。」
ああ、今更態度は変えられんし。ああ、もう死にたい。
逃げるように家に帰る。すると、家の前に人影があった。まさか。嘘だよね。
「おかえり、詩織。おつかれさm」
言い切る前に殴ってやった。今、本当に、無理。マジで、無理。
アフォシェ 櫻井春瀬 @sharuse
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