第47話 抜顕の謎
あれから三日が経った。
壊滅的なダメージを負った習志野駐屯地では現在、訓練は行われていない。そのため俺は、誰もいない訓練場の片隅で一人訓練をしていた。
「…………」
俺は
「……ダメだ、何も起きない」
俺はその場に座り込んで嘆いた。
市川との戦闘時に
「何か条件があるのかもしれないね」
いつの間にか人型に戻った立華がそう呟いた。
「条件か、そう言われてもなあ……
仲間の窮地に力が目覚めた、とかそういう少年漫画的なやつだろうか?
「立華は何か気づいたことはないのか? いつもと違った事とかさ」
「さあね、前にも言ったが私はその時の記憶がないんだ。気づい時には戦闘が終わっていた」
彼女が言うには、どうも抜顕状態の時の記憶がないらしい。あの時、俺が語りかけても返事がなかったのは意識がなかったからのようだ。
「いくら抜顕出来たとはいえ、再現出来ないんじゃ意味がないよな」
俺は思わずため息を吐いた。
「そもそも、抜顕時の能力はどんなものだったんだい?」
立華の質問に対して俺は頭を悩ます。
「それもよく分からないんだよな。直前で相手の攻撃が消滅したり、動きが予知出来たりとか」
「ふーむ、能力に一貫性がないな。なにか共通点や法則でもあれば分かりそうだが……」
そう言って今度は立華が腕を組んで悩み出した。
「あ、いた。
名前を呼ばれ振り向くと、少し離れたところから
「大隊長達が? 何だろう」
「よくわかんないけど、全員会議室に集まれって」
「おそらく今回の一連の騒動や今後の事についての話し合いだろう。今日の訓練のこの辺にしておこうか煉」
俺と立華は訓練を切り上げ会議室へと向かう事にした。
「抜顕の訓練はどう? 再現できた?」
会議室へ向かう道中、結衣が聞いてきた。
「いーや全然」
俺は首を横に振り、半ば投げやり気味にそう答えた。
「抜顕出来る人にコツとか聞いてみたら?」
「もちろん聞いたよ。でも、シュッとやってバシーンとか抽象的過ぎて何言ってるのかサッパリ理解できなかった」
ある有名な野球監督が選手に打撃指導をした時、ボールが来たらグッとやってバーンと打てとか止まったボールを打てなどと、教えたそうだが、まさにそんな感じだった。
「……それ、誰に聞いたの?」
「
俺が答えると、立華が頭を抑えながら呆れていた。
「どう考えても聞く相手を間違えてるだろ」
「いや、しょうがないだろ。大隊長たちは忙しそうで聞きづらいし、他に周りで抜顕できる人間がいないんだから」
確かに人選ミスは認めるが、他に選択肢がなかったのだから仕方ない。
「ところでさ、なんで煉は小嶺先輩や紫音先輩のこと呼び捨てなの?」
結衣は突然それまでとは全く違う話題を振ってきた。
「なんでって、紫音は呼び捨てじゃなくていいって本人がいってたから……小嶺は初対面の頃からいきなり斬りかかろうとしてきたし、なんか先輩って威厳もないからなんとなく……」
俺がそう説明すると、結衣は「ふーん」と何故か冷めた目でこちらを見てくる。
「なんでそんな事を聞くんだ?」
「別にぃ」
俺が聞くと何故か結衣は、ぷいっと顔を逸らした。
そこで俺は察した。きっと結衣もあの二人と距離を縮めたいのだと。
「お前も敬称つけないで呼べばいいじゃないか。多分あの二人は気にしないと思うぞ。何なら俺から話そうか?」
俺がそう言うと結衣は何故か不機嫌そうな表情になった。
「……馬鹿っ」
そう一言呟くと結衣は一人で先を言ってしまった。
「お、おいちょっと待てよ。何で怒ってるんだよ」
俺は結衣を追いかけるように早足で歩き出す。
後ろからは立華の大きなため息をが聞こえてきたのだった。
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