第45話 覚醒の兆し
「いいもんだなあ、汚ねえ不意打ちってのは」
背後で市川が薄ら笑いを浮かべながら、血の付いた聖霊刃を持って立っていた。
『大丈夫か煉?』
斬られた俺を心配して
「大丈夫、掠った程度だ」
咄嗟の事で避け損なったが、霊殻のおかげで深手には至らなかった。
──訓練のおかげだな。
と、俺は地獄の様な訓練に感謝した。
「それより、どうやって後ろに回り込んだんだ……」
『奴の足元を見ろ』
立華に言われ、俺は市川の足元を見てある異変に気づく。
「……穴がある?」
そう、市川の足元には人が通れる程の穴があいていたのだ。
『おそらく攻撃を受ける寸前、岩で身代わりを作り地中に潜って移動したんだろう』
立華の説明に俺は成程と納得する。まるで忍者の変わり身の術だ。
「次は同じ手を喰わない」
そう言って俺は剣を構え直す。
奴の手の内は大体わかった。錐による攻撃は厄介だが地面の隆起に注意していれば躱せせる。初動さえ見誤らなければ問題はない。
『上だ! 煉』
立華の言われ上を見ると、天井から円錐状の塊が落下して来た。
俺は慌てて横に跳んで、降って来た岩を躱した。
「くそっ! 上からも来るのか」
俺が舌打ちをすると、休む間もなく今度は地面からの攻撃が繰り出される。
──やりづらい。
下からの攻撃だけならまだしも、上にも意識を割かなければならないとなると回避に手一杯だ。
「くそっ! 近づけない」
『上からの攻撃は私がサポートする。君は地面と目の前の敵にだけ集中しろ』
「わかった」
そう返事をすると、俺は下からの攻撃に注意をしつつ徐々に市川へと迫っていく。
対する市川は腕をだらりと下げたままだ。
──また囮か?
そう思った俺は、市川を注視して霊気の流れを見る。もしこれが囮の像なら霊気は流れていないはず、直前で脱出しようとも霊気の流れを追えば見破れる。
俺は目の前の市川が本体であると確信する
──今度はしくじらない。
俺は手にした立華を上段から振り下ろそうとした一瞬、市川の口角がわずかに上がるのがみえた。その直後。
ドォーン!
大きな音と共に、俺の体に衝撃が走った。
「──がっ!!?」
まるで雷にでも打たれたかの様に全身が痺れ、俺はそのまま地面に倒れる。
──なんだ、何が起きた?
自身の身に何が起きたのかわからず、俺はただ混乱した。
『電撃だ……』
「……電……撃?」
その言葉に俺はさらに混乱した。市川の能力は岩や土などを操る能力の筈、二つの能力を持っているなんてあり得ない。
『地電流だ』
「……地電流?」
聞き慣れない言葉に思わず俺は聞き返した。
『地面内部に流れる電流だ。地殻活動など地磁気の変動で生じるものらしい』
そうか、一見力押しの様に思えた錐による攻撃は地磁気を乱すのが狙いだったのか。
能力については理解したが、体が言うことを聞かない。
そんな俺の姿を見下ろしながら市川が吐き捨てる。
「どうやら終わりみたいだな。手こずらせやがって」
市川は不敵な笑みを浮かべながら俺の頭を踏みつける。
「……クソ」
全身に力が入らない俺は、ただ市川を睨み返す事しか出来ない。
「何だ、その目は?」
睨みつける俺に対し、不快感を露わにした市川は、ボールでも蹴るかの様に俺の鳩尾に爪先をめり込ませる。
「ぐはぁ!」
俺は吐瀉物を撒き散らしながら無様に転がった。
「気に食わなえな、まだ絶望してねえ奴の目だ」
そう言って市川は俺に背を向けて
「……何をする気だ?」
「お前から殺そうと思ったが気が変わった。先にこいつらを殺してやる。てめえはそこでイモムシみたいに這いつくばって仲間が死ぬ様を見てな」
「……やめろ」
「いい顔だな、もっと見せてくれよ。絶望で歪むその顔をよ!」
嗜虐的な笑みで顔を歪ませた市川は、手に持った聖霊刃を振り上げる。
「やめろー!」
その瞬間、俺の手に握られていた立華が光り出した。
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