第43話 救援
市川を飲み込んだ火柱は、天井を突き破る勢いで空に向かって伸びていく。
「……これで終わって」
霊符で陣を作り、その陣を起点に天倫術を発動させた後、陣を構成していた霊符を起爆。符術と天倫術を融合する事で、威力を倍増させる技である。
分かりやすく言えば、火にガソリンを焚べる様なものだ。
メリットは詠唱を必要としない事や離れていても発動できる事、通常の霊符による術や天倫術よりも威力が絶大な事だ。
反面デメリットとして予め準備が必要な上に、対象を陣の中に誘導しなければならない。
加えて威力は絶大だが、消費する霊力もまた大きい。故に紫音としては、この術で市川が倒れてくれればと望んでいた。
立ち昇っていた火柱も徐々に弱まっていき、やがて消えていった。
格納庫内に立ち込めていた煙が晴れ、市川が立っていた陣の中心が見えてきた。
「……え?」
煙の中から現れたのは、石柱の様な物だった。
次の瞬間、石柱がボロボロと崩れていき中から市川が出てきた。
「危ねえ、蒸し焼きになるかと思ったぜ」
どういう事だ、と紫音は一瞬混乱するが、市川の右手に握られている聖霊刃の形状が変化している事に気付き理解した。
市川は火殲葬に飲み込まれる直前に
「あんな奥の手を隠し持ってるとはな、正直焦ったぜ。だがそれも、もう打ち止めみたいだな」
霊力が残り少なく、大技を打てない事を見抜かれて紫音はギリッと奥歯を噛み締める。
市川も火殲葬を完全には回避できなかったのか、所々服が焼け焦げてはいるがほぼノーダメージに近い。
一方、紫音は霊力も残りわずか、戦闘によるダメージも残ってる上に倒れた
圧倒的に不利な状況下、どうするべきか頭をフル回転させる紫音だが、相手は悠長に考える時間を与えてはくれない。
ダンッ! と市川が地面を踏みしめると、紫音たちの目の前の地面が隆起し、巨大な錐となって襲いかかる。
「……くっ」
紫音は目の前に迫り来る岩の錐を防御結界で防ごうとするが、あまりの質量に防ぎ切る事が出来ず、結界は次々と割られていく。
「どうした? 反撃してみろよ」
市川は自虐的な笑みを浮かべながら、ジワジワと痛めつけるかの様に攻撃を続ける。
結界を貫通した錐が、紫音の体をかすめ血飛沫が舞う。
「ぐっ……」
苦悶の声をあげ表情を顔を歪ませる紫音。その様子を楽しんでいるのか、市川は致命傷を与えないようワザと急所を避け、嬲り殺すかのように執拗に攻撃する。
やがて紫音は霊力が尽き、地面に這いつくばるように倒れた。
「流石に限界か?」
市川はトドメを刺そうと、ゆっくりとした足取りで紫音に近づいて行く。
「手こずらせやがって」
そう言って市川は紫音の頭を踏みつける。
踏みつけられた紫音は、もはや反撃する力もないのか小さく呻き声を上げるだけだった。
「終わりか……」
市川は足元の紫音を壊れたオモチャを見る様な目で見下ろし、右手に握った聖霊刃を振り上げる。
「いま楽にしてやるよ」
──ここまでか
紫音が死を覚悟したその時、何者かの攻撃を受けた市川の体が地面に叩き伏せられた。
何が起きたのか困惑しながら紫音が顔を上げると、そこには見知った人物が立っていた。
「間一髪だったな」
紫音の目の前に立っていたのは年下の同僚、
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