第42話 窮地
「駄目だ、
俺はすぐさま携帯を取り出し、
『もしもし
「そこに小嶺と紫音は居るか?」
通話が繋がるや否や、俺は捲し立てるように結衣に聞いた。
「そういえば、さっきから見ないかも。どうかしたの?」
「嫌な予感がするんだ。とにかく二人を探してくれないか、
俺は結衣に用件だけ伝えると、返事を聞く前に通話を切った。
「大隊長、俺たちも探しに行きましょう」
「ああ、わかった。なら手分けして探すぞ。俺は施設の東側を、お前達は西側を探せ」
男鹿大隊長の提案に俺と
「気をつけろよ二人とも」
「そっちこそ、さっきまて千鳥足だったけど大丈夫なのか?」
「酔いなんてとっくに覚めちまったよ。憎まれ口叩くぐらいなら大丈夫そうだな」
そうして俺たちは二手に分かれ、小嶺達の捜索に向かった。
格納庫の照明を誤って点けてしまった為、姿を見られてしまった小嶺と紫音。
「まいったな、周囲には警戒していたつもりだったんだけど」
姿を見られた市川は、気だるそうにそう呟きながら二人を見る。
「……何をしてたんすか?」
小嶺は恐る恐る市川に質問した。
「何もしてないよ、ただ輸送機を見てただけだよ」
小嶺の質問に何事もなかったかのように笑顔を浮かべ答える市川。だが無論、小嶺も紫音もそんな言葉に騙されたりはしない。
「……悪いけど信じられない。この事は報告させてもらう」
紫音がそう告げると、市川は
「めんどくせえな、やっぱ殺すか」
さっきまでとまるで別人のような目つきと口調に変わる市川。
小嶺達は、その場の緊張感が一気に高まったのを感じた。
「逃げるっすよ紫音ちゃん」
小嶺は紫音の腕を引っ張り、その場から逃げようとした。
「逃すかよ」
市川が聖霊刃を抜き、天井へ向かって斬撃を放つ。
放たれた斬撃は天井の一部を破壊し、崩落した瓦礫が小嶺達の頭上に降ってくる。
「危ない!」
小嶺はとっさに紫音を抱え、頭上から降ってきた瓦礫を回避するが、格納庫の扉は瓦礫によって塞がれてしまった。
「くそ!」
唯一の出口を失った小嶺は焦りを覚える。そんな時、小嶺の携帯に着信があった。
小嶺が着信音に気を取られたその一瞬、市川が小嶺の懐に飛び込み斬りかかる。
「くっ!」
小嶺はすんでのところで斬撃を躱すが、続いて放たれた市川の回し蹴りをモロに喰らい吹き飛ばされる。
「ガハッ!」
背中から壁に思い切り叩きつけられた小嶺は、肺の中の酸素を全て吐き出し昏倒する。
「まず一人」
市川は気を失った小嶺にトドメを刺そうとゆっくりと歩き出す。
市川が小嶺に近づこうとした次の瞬間、紫音は市川の背中に向けて火球を放った。
しかし市川は瞬時に察知し、向かってきた火球を振り向き様に両断した。
「ちっ、術師か」
市川は紫音を見て面倒くさそうに吐き捨てた。
紫音は背中に嫌な汗を感じながら、右手を市川に向け次の攻撃に備える。
緊張感に包まれた空気を破るかのように、紫音の携帯が格納庫に響き渡る。
「出なくていいのか? 助けを呼んだ方がいいんじゃないか」
挑発とも取れる市川の言葉に紫音は奥歯を噛み締める。
電話に出たいのは山々だが、少しでもスキを見せる訳にはいかない。紫音は、何とかこの窮地から抜け出すために頭をフル回転させる。
「来ないならこっちから行くぞ」
膠着状態を破ったのは市川だった。
一気に距離を詰めようとする市川に対し、紫音は右手から大量の煙幕を放出した。
「ちっ」
紫音の姿を見失った市川は思わず舌打ちをする。
「悪あがきしやがって……だが!」
市川はすぐさま振り返り、小嶺の倒れていた方向へと走り出す。
「見つけた!」
そこには、倒れた小嶺を抱え起こそうとしている紫音の姿があった。
「オラァ!」
市川は紫音に向かって刃を振り下ろす。
「
紫音は咄嗟に術式による防御障壁を展開したが防ぎ切る事が出来ず、障壁が破壊された余波で体勢を崩す。
紫音はすぐに体勢を立て直そうとするが、追い討ちをかけるように迫ってきた市川の腕に首を掴まれ壁に押し込まれる。
「煙に紛れて仲間を助けた後トンズラするつもりだったんだろーが、お見通しだっての」
「……ぐ……が……」
首を強く絞められた紫音は苦しそうにうめき声をあげる。
「これで詠唱も出来ねえだろ。このまま絞め殺すか、それとも一思いに心臓を突いて殺してやろうか」
市川が右手に持った聖霊刃を水平に構えると、紫音の袖から霊符が一枚だけハラリと落ちる。
袖から落ちた霊符に気づいた市川は、咄嗟に後ろへと跳ぶ。次の瞬間、霊符から小規模な爆発が起こる。
「くそっ! 霊符を隠し持ってやがったか」
市川は憎々しげに紫音を睨みながら聖霊刃を構え直すが、ふと足元に違和感を感じ視線を落とした。
見ると、足元には市川を囲むように霊符が並べられていた。
「いつの間に!」
紫音が地面に手を当て、自らの霊気を龍脈に乗せ霊符を発動させる。
「
紫音が術式を発動させると、熱波を帯びた奔流が湧き上がり、やがてそれは市川を飲み込む大きな火柱となった。
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