第40話 帳簿の中身
「人の部屋に無断で入るのは感心しませんね」
いつからそこに居たのだろうか、部屋の入り口で
「いやぁ、すみません。酔って部屋を間違えたみたいです」
「その割には意識はしっかりしている様ですね」
当然そんな言い訳が通用する筈もなく、梶原中隊長はこちらを真っ直ぐ見据えたまま動かない。
「見え透いた嘘はやめませんか?あなた達の目的はわかってます。合同訓練はただの建前、本当は第六を探るのが狙いでしょう?」
そこまで言われて男鹿大隊長も観念したのか、頭をポリポリと掻きながら「はぁ」と一度ため息を吐いた。
「流石に誤魔化しきれませんね。あんたの言う通り俺たちは第六の内部調査の為にこの駐屯地まで来ました。申し訳ないが部屋を調べさせてもらいましたよ」
梶原中隊長は最初から分かっていたのか、特に驚いた様子もなくゆっくりと口を開く。
「それで? 何かお目当てのものでも見つかりましたか?」
「目当ての物かは分かりませんが、コレが貴方の机の引き出しから見つかりました」
男鹿大隊長は、先ほど見つけた帳簿を手に取って掲げて見せた。
「何の数字が書かれているか分かりませんが、調べるために押収させてもらいますよ」
男鹿大隊がそう言うと梶原中隊長は、ふふっと鼻で笑った。
「どうぞご自由に。しかし、その帳簿は貴方たちの思っているような物ではないですがね」
その意味深な言葉に、男鹿大隊長は顔を
「どういう意味ですか?」
「横流しされた霊符の取引を記録した物ではないという事ですよ」
「どうしてその事を!?」
思わずそう叫んでしまった俺を見て、梶原中隊がククッと笑った。
「素直な反応ですね久坂くん」
そう言われて俺はカマを掛けられた事に気付き、自分の軽率さを悔いた。
「綱島駐屯地での霊符横領の件は聞いていましたからね。そこに属する貴方たちの隊が来て、何か探ってるとなれば容易に想像はできますよ」
その口ぶりは、初めから俺たちの隊が潜入目的で来ていた事を分かっていた様だ。
「そこまで分かってるなら隠しはしません。単刀直入に聞きます。
男鹿大隊長は、射抜く様な目で梶原中隊長を見て質問した。
「違います」
その質問を受け、梶原中隊長は表情を変える事なくキッパリと否定した。
「なら、この帳簿は何なのか説明してもらえますか?」
梶原中隊長は、やれやれと言った顔をしながら質問に答える。
「鋼材調達の裏帳簿です。正確にはその写しですけどね」
「裏帳簿?」
きな臭い言葉に、男鹿大隊長は眉根を寄せる。
「ええ、軍の工廠に納品された鋼材が注文した物と違う事が判明し、調べてみたところその帳簿が見つかったんですよ」
「それで、この帳簿で何がわかったんですか?」
「本来計上されているべき
梶原中隊長が言うには、表では黒耀鋼を発注した様に見せかけ実際には安い一般鋼を発注し、その差額分を着服していたという事だ。
「それで、その差額分の金はどこに?」
「鋼材調達の担当者を拘束して話を聞いていますが、まだ何も。しかし、金の流れを追えば反乱分子にたどり着ける可能性は高いかと考えています」
どうやら着服した差額分が、反乱分子の活動資金になっているのではないかと言う事だ。
「貴方たちが探してる霊符横領の犯人も反乱分子の人間でしょう。どうですか、ここはお互い協力するというのは」
梶原中隊長からの申し入れに対し、男鹿大隊長は逡巡した。
「……わかりました。情報共有という形で良ければですが」
「それで構いませんよ」
男鹿大隊長の言葉に、梶原中隊長は笑って了承した。
「ところで……どうして私は疑われていたんですか?」
梶原中隊長は口元に手を当て、考え込む様なポーズをとってそう聞くと、男鹿大隊長が答える。
「隊員の一人から、このところあんたがよく出張で外に出てると言う話を聞きましたんでね。あんたは第六大隊の中でも影響力の強い人物の様ですし、第六に配備された魔装機兵が、回収を装い訓練校襲撃に使われたなんて噂も聞きましたからね」
「なるほど、疑われても仕方ないという事ですね。確かに外に出る事は多かったですし、綱島駐屯地にも赴いたのも事実ですが、あくまで情報収集の為であって後ろめたい事なんてありませんよ」
梶原中隊長は得心がいった様子で頷き、そう語った。
「では魔装機兵については?」
「それも誤解ですよ。ここに配備された魔装機兵には黒耀鋼が使われていなかったので回収される事になったんですよ」
なるほど、それで先程の帳簿の話に繋がるという事か。
「しかし、随分と適当な情報を教えられたようですね。一体誰なんですか、その隊員というのは?」
「
それを聞いた梶原中隊長は、なにやら腕を組んで思案する。
「市川駿……聞いた事のない名ですね」
「覚えていないだけじゃないんですか?」
やや皮肉混じりの男鹿大隊長の言葉に、梶原中隊長を首を横に振る。
「仮にも第六大隊の副隊長を任されている身、隊員の顔と名前は一人残らず覚えています。断言しますが、市川駿などという隊員はウチの大隊には存在しませんよ」
「……どういう事ですかね?男鹿大隊長」
「わからん。とにかく一度、
男鹿大隊長はポケットから携帯を取り出し、小嶺へと電話をかける。
「くそっ、出ない」
何度コールしても出ない事に、苛立ちを覚えた男鹿大隊長が声を荒げる。
ただ単に小嶺が気づいてないだけならいいが……何だか妙な胸騒ぎがする。
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